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終わりを目指す三人旅
「ボクはノア・グラスブルー。この世界の終わりを待ってるんだ」
こんなにもおかしな自己紹介だというのに、今目の前にそびえ立つ黒い壁の存在を思うと霞んでしまい、特に引っかかりもなく受け入れてしまえました。
「でも、どうして気付いたのかなぁ。普通に平和で、大好きなお父さんもお母さんもいて。不満なんかないはずじゃない」
「俺は両親に会ったことなんかない……それに。ここにはコウもユウ兄もいないから」
いくら幸せだって、都合が良くたって。実際にはなかったものを見続けたら猜疑心も生まれます。実際にはあったものがまるでなかったように見過ごされ続けたらなおさらです。
お世辞にも仲の良い兄弟ではなかったとはいえ。赤ちゃんの頃から両親のいない寂しさを共有してきたコウ君の存在は、やはりフウ君にとって切り離せないものだったのですね。
「気付いちゃった以上はここにいても仕方ないし、どう? ボクと一緒に来る? ……まぁ、ついて来たところで目指す場所は終末しかないんだけど」
だったら細かい矛盾に目を瞑って、生まれ故郷のこの村で、大好きな両親と終末を待つだけの日々でも良い気がするよ。ノア君はあっけらかんと言ってのけますが。
「ついてっていいって言うなら……行きたい」
「へぇ? どうして?」
「いくら都合が良くたって、こんな作り物丸出しの故郷なんて逆に気持ち悪いんだよ。違和感しかないし」
「あーらら……ある意味、君のためだけに作った世界みたいなものなのに。報われないねぇ」
ここにはいない誰かに心底同情するような顔で、ノア君は嘆息します。
「そこまで言うならいいよ、一緒に行こう」
ノア君が黒い壁に手を着けると、彼の足もとから白い板が出現して、それが次から次へと黒い空間に飛んでいきます。一定間隔で空に向かって並び、階段になったみたいです。
「ちゃんと気を付けたら大丈夫だとは思うけど、落ちたらまずいし、一応手を繋いでいく?」
「……悪いけど、ちょっと怖いから」
「気にすることないって。初めてなんだからさ」
差し出された手を握って、一歩ずつ慎重に、階段を上がっていきます。真っ暗闇に浮かぶ白い板に立ち、空へ向かって歩いていく。あんまり恐ろしくてフウ君にはちっとも余裕がなく、握った手に力を入れ過ぎてしまいます。
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