「コウ君」の故郷

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「コウ君」の故郷

 周知の通り、ちょっとやそっとでは動揺しないと評判のコウ君ですが。私のこの告白には表情一杯に疑問符を浮かべました。 「えーと、イリサには実体がないんだよな?」 「はい!」 「そんで普段はオレの影の中に潜り込んでて、オレと一緒にグラスブルーから出て地上に下りたんだよな?」 「その通りですっ」 「……それなのに、腹が減るって?」 「……わーぅー」  恥ずかしすぎて、不明瞭な言葉がお腹の奥からしぼり出てしまいました。  実体がないのにお腹が空くなんて。私だけなのか、他の神竜達も同じようなやり方で地上に下りたら同様なのか? 前例がなくてわかりませんが、ともかく大問題です。お食事が出来ないこの身で空腹を感じるなんてあまりにも残酷すぎませんか? 「言われてみればオレも、あそこを出てから急に腹が減ってきた気がしてきた……」  グラスブルーでは時の流れがなかったからお腹が空かなかった、というのが可能性としては有力な気がしますね。 「せっかく久しぶりのメシなんだから、とっておきを食べに行こうかな」 「とっておきですか?」 「ああ。ふるさとの味って感じ」  ちょうど、アルディア村へ帰ってカイン君に会ったり、お家の片づけをしたいとコウ君は言っていたので。ついでにふるさとの味とやらも堪能出来ますね。 「コウ? やだ、あんた十年振りくらいじゃないの? 変わらないねぇ~、顔は。髪はその……」  コウ君のとっておきとは、自宅の隣家の宿屋。その食堂でカイン君のお姉さんのネイルさんが提供してくれるお料理のことだったんですね。  コウ君が統一軍に入るため村を出たのが十五歳で、グラスブルーで二十歳を迎えて赤い髪に変化して。  ということはもしかして、あそこでフウ君の亡骸を前に動けず過ごして、五年間も経っていたということなのでしょうか。 「フウと、お揃いにしたのかい……?」 「うん……フウは、死んじゃったから。忘れたくなくて」  そういうことに、したみたいです。ネイルさんにはお世話になったからフウ君の死を伝えたかったでしょうし、髪の色が急に変わったことも詳細な説明を避けられますから。
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