「コウ君」の故郷

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「カインは?」 「今は村にいないのよ。P大陸の王立軍に勤めていてね」 「王都に行ったら面会出来るかな」 「便りを出しておいてあげようか」 「お願いします」  ぺこりと頭を下げます。なんだかコウ君、ネイルさんとお話ししている時はちょっとだけ、態度も所作も幼く見えますね。……なんでしょう、ちょっと悔しいような。 「オレはこれから、ソウ兄を探して長く旅をしなきゃならないんだ。だから家も片付けて、手放してから発とうと思う。誰も住まないでいて、お父さんの家がボロボロになるのは嫌だから……」 「そうね……残念だけど、しょうがないよ」  あの家を手放したくなかったフウ君はすでに喪われ。ネイルさん自身も幼い頃はあの家でコウ君達のお父さんと遊んだりして思い出深いのですが、やむを得ない判断だと肯定してくれます。  それどころか、コウ君の体はもう老化しませんので……ネイルさんをはじめ、コウ君のことを知っている人がアルディア村からいなくなるまで。今後、コウ君はこの村に立ち入らないことを自ら決めていました。  ネイルさんの振る舞ってくれるいくつかの料理の中で、コウ君のとっておきとは、牛の胃袋……ハチノスをトマトソースで煮込んだものでした。  ほかほかのご飯と交互に食べるのが好きとのことで、さっそく「いただきまーす」と食べ始めます。すると……。 「美味しい……味がします、コウ君!」 「ん? ……オレが食べたものの味がわかるって?」  ハチノスに続いてコウ君がご飯を飲み込むと、お腹の……胃のあたりがほかほかと温かくなったような気がしました。これはおそらく、満腹感? 「良かったな。問題がひとつ解決したみたいで」 「はいぃ~! ほんっっとうに安心しましたぁ」  今後ずーっと、空腹感と戦わなければならないなんてことにならなくて良かったです。 「コウ……どうしたんだい?」 「何が?」 「まるで、誰かと話しているみたいじゃないか……?」  私の姿はコウ君以外の人には見えません。そのことをコウ君はあまり意識していなくて、この場に限らず街中でも私と普通にお話ししてくれます。  私が寂しくないようにそうしてくれているみたいなのですが、こうやってコウ君が奇異の目で見られてしまうのは申し訳ないです。 「ネーちゃん、いつもの。おかわりしてもいいかな」 「いいよ。あっためてくるからちょっと待ってな」  もう二度と食べられないかもしれないからと、コウ君は大好物をもう一皿追加でお願いしていました。
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