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安楽椅子神竜
「こちらの神竜様というのは、王立軍に閉じ込められているのでしょうか……」
「引きこもりの神竜って、捕らわれてるのか?」
もしかしてツバサ様のような境遇なのかしらと気になって口にしたら、コウ君が代わりに訊いてくれました。
「まっさか。引きこもりは誰かに強制されてするもんじゃないだろ。普段は自分の意志で、市民に見られないような城の奥底にこもってるんだよ。だから軍の内部でもごく一部が知ってるだけで一般の兵士は知らない。たまーに外に出たいって思えばひとりで自由に王都を散策してるのさ」
捕らわれどころか、他の神竜様の誰よりも快適な暮らしぶりな気がします。
「パー様ぁ~、カイン・リークイッド失礼しまーす」
「お構いなく。貴公が失礼なのは毎度のことだ」
「そういう意味じゃないって、わかってて言ってますよねぇ?」
カイン君の案内で辿り着いた、王宮の最奥にあったそのお部屋は、想像していたより明るい場所でした。天井に設置された魔法陣から白い明かりが煌々と灯り、部屋全体を照らしてくれています。
壁の三面が本棚になっていますが、ぎゅうぎゅうに詰まっているわけではありません。むしろどこかから運んできた、まだ読み終えていない本を積んでおくために存在しているのではないかと想像しました。そのくらいスカスカで隙間が多いのです。
部屋の中央には大き目の卓があり、その上にも雑多に本が積んであります。その傍らに置かれた大きな安楽椅子に、その方はゆったりと背中を預けていました。足を組んで、読書に没頭しています顔の近くにぐっと本を引き寄せているためお顔がうかがえません。
今いいところだからキリの良いところまで待っていろ、と言われたのでしばし待っていましたが……。
「って、いくらなんでも待たせすぎでしょお客人を」
カイン君に本を没収されてしまいました。
「何をするか無礼者が!」
「どっちが無礼なんですか。せっかく貴方のごきょうだいをお連れしたっていうのに」
「ふん……夢幻竜に母神竜か。健勝そうで何よりじゃないか」
しぶしぶといった体で安楽椅子から立ち上がり、胡乱な目でこちらを一瞥します。せっかく楽しんでいた読書への未練がお顔に滲んでいます。
「そういうあんたは、さして健康そうに見えないけど……」
「それに、眼鏡をおかけですね。神竜様なのに視力が落ちるものなのですか? せっかく千里眼をお持ちなのに、影響はないのでしょうか」
彼はまるで栄養状態の悪い方のように細身で、上背も私よりほんの少し高い程度。成人の男性としてはかなり小柄だと思います。
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