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「近くのものが見えないだけで、遠くは見える。千里眼も問題なく機能している」
本の読みすぎで視力が落ちて、遠視になってしまったんだそうです。
コウ君と同じく、赤い髪。前髪を後ろに撫でつけて整髪剤で固定しているのは、少しでも本を読みやすくするためかもしれませんね。
機嫌を損ねてしまったかもしれませんが、話が終わらないとカイン君が本を返してくれなさそうなのでお付き合いいただけるみたいです。
つかつかと本棚の方へ歩みを進め、そこに立てかけてあった大鎌を掴み、こちらへ戻ってきます。
「吾は断罪竜、パーシェル。百年ほど前よりこのピノール王家に寄宿している」
お名前を頂戴したので、私とコウ君もそれぞれ自己紹介致します。
実を言うと、私は彼のことを少し知っています。百年前……人として生きていた頃のお名前は失念してしまいましたが……一時期、彼はソウジュ様と行動されていましたから。その頃の様子を少々、拝見していたのです。
パーシェルの生まれたのは今から百五十年ほど前で、この時代は私の知る範囲では最も世の中が荒れていました。三大陸それぞれの支配者が確定しておらず、我こそはこの大陸の覇者であると名乗りを上げた勢力のぶつかり合う戦乱の時代だったからです。
現在のR大陸の港町ミラトリスの貧民街にて、双子のきょうだいと共にパーシェルは生まれました。自分ともうひとりのどちらが兄で弟なのか、彼は知りません。両親は彼らにひとかけらほどの愛情もなく、生まれた時のことをきちんと記憶していなかったため、もはやこの世の誰にもわからないのです。
パーシェルは学問への興味の深いお子様でしたがこのような生まれではそれも望めず、しかし貧民街の片隅にあった教会でささやかながらも学びを、数日おきの炊き出しによって命を繋いでいました。家族の元へはほぼ帰りません。
パーシェルの双子のきょうだいはこれまでの前例と同じく赤い髪で、二十歳になれば神罰を受けてしまう体でした。当人はそれを知らないので自暴自棄になったゆえにということも別になく、他者から奪った物を搾取して暮らす毎日でした。
コウ君とフウ君のように、本当は仲良くしたいけれどすれ違ってしまって……なんてことは一切なく、パーシェルとそのきょうだいはただただ純粋にお互いを憎みあっていました。それぞれが生きる上で喜び楽しみを覚える対象が正反対で、分かり合えなかったのです。パーシェルは慎ましくても学びのある穏やかな暮らしを求め。きょうだいは少しでも多くのお金を得て豪遊することが何よりの楽しみで、地道に稼ぐよりも誰かから奪う方が手っ取り早いと考えていました。
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