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「一方的に訊ねてばかりで悪いが、断罪竜に会えたら訊きたいと思ってたことがあるんだけど」
「言われずともわかってるよ。そこのカイン・リークイッドにも同じことを訊かれたし、今後もそれに関わる者と接触する度にその問答を繰り返すことになるだろうな」
ああ、面倒だ。そう嘆きはしますが、パーシェルの言葉には迷惑そうな響きはありません。それに関わる人々にとって切実な命題であると理解しているからでしょう。
「傀儡竜の生まれ変わりに与えられる神罰っていうのは、過去の太陽竜の命令で断罪竜が下してるっていうんだよな。その神罰を止めるのは今のあんたには無理なのか」
「不可能だね。吾に与えられた権能は断罪竜の神器を用いることだけで、人だろうが神だろうが他の生物だろうが『神罰を下す』ことは出来ない。その逆も然り。与えられないのだから、それを取り上げることも出来ないよ」
「どうしてですか? あなたは断罪竜様なのに」
「忘れているのかね? 母神竜よ。貴女の神器を用いて、断罪竜は魂と肉体を神話時代にはすでに分離したのだよ」
「そうでしたっけ……」
そもそも私は母神竜様の神器で何が出来るのかも知らないので、どうしてそのようなことをしたのかもさっぱりです。
「魂には記憶が、肉体には感情がそれぞれ宿る。断罪竜とは罪を裁く神竜なのだから、その行為が自らの感情如何によって左右されてはならない。断罪竜はそう考えて体を切り捨てて、今もこの広い広い世界のいずこかを魂のみで浮遊し、放浪しているのさ」
広い世界とは三大陸のみではなく、海の向こうの別の陸地やそこにある国々も含まれます。私達にその所在を突き止めて、神罰を止めてくださいとお願いするのもおそらく不可能に近いでしょうね。
「たとえ断罪竜の魂に接触出来たとして、一度取り決めてすでに執行もした神罰を途中から覆すなど、断罪竜の立場としてはありえないだろうな」
「判例法主義か……案外、神様っていうのも人間臭さあるもんですね」
カイン君が呟く声色には苦味が含まれているように聞こえました。人間社会でもそれに苦しめられる人々がいることを知っているからでしょうね。
フウ君もそうですが、神罰を受けて亡くなった人がすでに複数人いる以上、今後生まれる赤い髪の方々に神罰を下さないとなるのは不平等ということです。ひとりでも多くの人が助かるならその方が良いと思うのですが、そういう感情論に影響されないからこその裁き……それが断罪竜様の在り方なのですね。
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