27人が本棚に入れています
本棚に追加
断罪竜の対話
「時にカイン・リークイッド君。久方ぶりに旧友に再会したのだから積もる話もあるのではないか? ふたりで城下へ出てペルノの美味い酒でも嗜んで来たらどうだろうね」
「唐突すぎて露骨に怪しいんですけど……コウ、どうする?」
「オレはどっちでも……ふたりねぇ」
コウ君がちらりと私を見ますと、パーシェルはなおも畳み掛けます。
「たまには男同士でしか出来ない話でもして来たらいいんじゃないかね。なぁ、イリサ君」
「なるほど……一理ありますねっ。私はパーシェルとここでお留守番していますので、コウ君是非行ってきてください!」
私という邪魔者がいると、男の人同士だけでしか出来ないような距離感の会話がし辛いのではないでしょうか。申し訳ないですがその点をすっかり失念しておりました。
「そこまで言うなら、たまには羽でも伸ばしてくるか」
「別にいいですけど、ふたりだけだからって母神竜様にやばいことしないでくださいよー」
「若い女とみれば誰であろうと見境のない、貴公のような誑しと同じに考えてくれるでないよ。他者への関心などとっくに枯れてるわ」
あらら、最近のカイン君は女性遊びが盛んなのでしょうか。アルディア村や統一軍で拝見していた頃はそういう行動は見受けられませんでしたけれど。
カイン君は特に否定もせず、べーっと舌を出しつつコウ君を連れて部屋を出て行きました。それにしても仮にもお仕えしている神竜様を相手にこの距離感はすごいです。人と交渉する仕事に長年携わってきたカイン君の経験はさすがだなぁと感心してしまいます。
「まったく口の減らない……そもそも実体のない相手に何をするというんだ」
「ですよねぇ」
この時の私はいたって素直に同意したのですが、実はカイン君は何らか嫌な予兆を覚えてああ言ってくれていたのだと後に思い至ります。本当に洞察力に優れた方なんですね。
「さて、母神竜よ。吾の方こそ、貴女に出会えたらひとつ確認しておきたいことがあったのだよ。構わないかね?」
「もちろんですよ。私達こそ一方的に色々お聞きするばかりでしたから。それでその用件とはなんでしょう?」
「イリサは思い馳せたことはないのか? 母神竜たる貴女が消え去れば、白銀竜を苦しめ死に至らしめた生命が絶滅するのだと」
「……はい?」
「貴女自身が望むのなら我が神器を用いてそれを叶えてしんぜようか」
さきほどのカイン君じゃないですけど、突然すぎて何を言われているのか、頭がその発言を受け入れるのに少々の時間を要してしまいました。
最初のコメントを投稿しよう!