断罪竜の対話

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 私がそうしている間にもパーシェルはかちりと音を立てて、神器を両手にしっかりと握り直しています。先ほどまで片手で無造作に掴んでいるだけだったのですが。殺意こそ見せないものの、言動が冗談ではないという意思表示でしょう。 「質問で返すようで申し訳ないですが、お訊きしないと不明点が多くて……。あなたの神器で神竜は切り殺せるのですか? 断罪竜様の裁きとしてなら同胞殺しの罪を負わないのですか?」 「神竜が罪を犯した時のために裁きが通用するようになっていなければ役目を果たせないだろう? だが神罰に例外はない。断罪竜が除外されるのならわざわざ傀儡竜など新たに拵える必要はなかっただろうからな」  いや、断罪竜はあくまで罪を裁くための神竜であって、咎を犯したわけでもない神竜を殺して回らせるのは存在意義に反している。そういう意味ではやはり傀儡竜はどっちに転んでも必要だったかな? などとパーシェルは自問自答していますが、声に出しているので私もおこぼれに預かります。 「仕組みは理解出来ましたが、私がそのように望むなどとどうして思われるのですか? そんな風に見えますかね……」 「一切見えないからこそこちらも疑問なのだよ。白銀竜の無念を晴らしたいとは思わないのかね?」 「パーシェルは白銀竜様……ソウジュ様がそのように望まれるとお考えなのですか」 「ソウジュ様……か。念のため確認しておくが、貴女はあの『ソウジュ』を名乗る者が白銀竜ではないと理解しているのかね。あれはあくまで太陽竜であって、貴女の愛した白銀竜はこの世のどこにも存在しないよ」  どうしてそれをご存じなのかしらと思いましたが、考えてみれば何のことはありませんでした。ソウジュ様と五十年も同じ時を過ごしたのですから、世間話のひとつとして私との思い出が紛れ込むことだって咎められません。 「太陽竜様はそのお体に、ソウジュ様の魂を宿しているのではないですか? 存在しないとまでは言えないと思いますけど」 「わかっているじゃないか。それはつまり、この世にあるのはソウジュの魂……『記憶』だけ。その心はもうこの世にはなく、貴女の愛したソウジュの人柄はあの体にはないはずなのだよ」 「では、ソウジュ様……いいえ、ツバサ様は」 「ソウジュの記憶を読み取って、生前の彼を模倣してそう振る舞っているだけだろうな」
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