ノア・グラスブルー

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ノア・グラスブルー

 コウ君と共に地上に下りてからも、私とクエスの繋がりは断たれたわけではないようです。毎晩ではないようですが夜眠りますと、グラスブルーの影の世界を垣間見ることがありました。 「やったぁ、水の都ノエリアックだ! むか~し話を聞いてから、一度行ってみたいなって思ってたんだよね~」  空高くを横切る長い舗装道。誰が設けたのかわかりませんが転落防止と思わしき白い柵もあります。その柵に手を着き、身を乗り出すようにしてノア君は眼下の景色に歓声を上げます。 「せっかくだし下りてみようよ、ねぇ! フウ、ヒナ~」 「せっだくだからも何も、町が見えたら今までだって例外なく下りてるじゃないか……」  何せ、下りられそうな何かが見えない限りは変わり映えのしない何もないこの道をひたすら歩いているだけ。不毛なことこの上ない。下りる以外の選択はないのだからこのやり取りに何の意味があるんだろう。フウ君は呆れがちです。  自分はまだしも、隣に佇む彼女の反応は毎度同じ。ノア君の呼びかけにも黙って頷くだけなのだからますます意味がないように感じてしまいます。 「そうは言うけど、何かのきっかけに声出しておかないとその内話し方も忘れちゃいそうじゃない。フウだってそうなりそうって思わない?」 「まぁ……それはあり得る、けど」  何もない道をただ歩くということは、会話のきっかけになりえそうな出来事もそうそう起こりません。フウ君だって地上でわずか二十年しか生きていませんから、その頃の経験から会話の糸口を探そうにも限界はありますよね。 「へぇ~、フウって魔法の勉強してたんだ。良かったらボクに教えてくれない?」  興味あるし、いつか役に立つかもしれないし、暇つぶしになるし。一挙三得! ノア君がそう言い出したので、フウ君は修業で培った魔法の知識を分けてあげたのですが。 「う~ん、残念だけどボクは魔法使えないみたい。封印されてるからかなぁ」 「封印?」 「この赤い髪を見たらわかるでしょ? ボクは君と同じ。二十歳になるまでは太陽竜様に封印されてるんだよ」 「……あとどれくらいで二十歳になるんだ?」 「さぁ……地上に下りたらもう、すぐにでもなるくらいだったかな。ここへ来てかなり経つからもう記憶が曖昧でわかんないんだよね」  グラスブルーの外も中も、時間の流れがありません。だからノア君はここへ入った頃から時が止まっています。
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