ノア・グラスブルー

2/4
前へ
/260ページ
次へ
 フウ君は未だにこの世界の仕組みを把握しきれていませんが、どうやらノア君がすぐに死んでしまうようなことにはならなさそうで密かに安堵します。勝手な話だよなと自嘲しますが、こんな退屈な世界で話し相手になってくれているノア君を喪うのは辛いので。ヒナは未だにどんな声をしているのかすらわからないほどに口を開きませんし。  試しにフウ君もやってみましたが、魔法を使うことは出来ませんでした。せっかく学んでも使えないし、そもそも望まぬ運命から逃れるためだったのにそれも叶わず。修業って本当に何もかも無駄だったのかなと落ち込んでしまいます。とはいえ、確かに時間潰しの一助にはなっているのでもうそれでいいやと割り切ることにします。  ノア君がご機嫌で柵を乗り越えて手を前にかざすと、下に向かって白い板が等間隔に並びます。空中の階段。この後どうなるかを知っているヒナは、もう指示されなくても先に階段を降り始めました。 「じゃ、行こうか」 「うぅ……」  フウ君はちょっと屈辱的な心境で、それを表情にも隠すことが出来ず、渋々とノア君の腕にしがみつきます。どうやらフウ君は高所恐怖症だったらしく、何度こうして上り下りを繰り返そうが慣れるどころか恐怖心は増していくばかりでした。  高所恐怖症というより……フウ君は以前は普通に上り下り出来ていたはずの、故郷の役場の階段もいつからか怖がるようになっていました。コウ君との一件以来、長すぎる階段が怖くなったのかもしれません。 「誰にだって怖いものはあるんだし、気にすることないのに~」 「ううううるさい、気が散るから下りるまで黙ってろって……っ」 「はぁ~い」  ノア君は別にからかっているわけではなく本心からそう言っているのですが、言われるたびにフウ君は羞恥心によってそうは受け取ってくれません。そういう素直じゃないところ、お兄さんとそっくりだよね~と心の中でこっそり呆れてしまいます。 「このおっきな湖水は三大陸の水源なんだってね。ウンディーネに会えた人はいないらしいけど、元々はひとつの大陸だったのがみっつに分かれちゃったから、ウンディーネも三人に分離してそれぞれの大陸に行かなきゃいけなくなって大変だったみたいだよ」 「ウンディーネ?」 「この辺の世界の人達は知らないけど、水源って母神竜様の子供達が管理してて、それがウンディーネっていうんだって」 「へー……」
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加