ノア・グラスブルー

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 ウンディーネにも会ってみたかったんだけど、この世界にいるのはすでに死んだ人だけのはずだからたぶん会えないだろう。ノア君は内心で残念がっていましたが、それを口に出してしまってはフウ君に自分自身の死を意識させ過ぎてしまいますので、胸の内だけでその感情を処理しました。  水の都ノエリアックは町全体に水路を巡らせて、なおかつ家屋を全て白色に統一させて清潔感を感じさせることで避暑地として名を上げた観光地です。お祭りの楽しさで人を呼んだ、フウ君の故郷アルディア村とは正反対で、静けさを強調することで日頃の生活に疲れた人々の心を癒すのです。  まともな世界でだったらそれが癒しになるんだろうけど、この世界は「静かさ」には事欠かないからありがたみが薄いな……ノア君が喜んでいるような感動をフウ君は感じられませんでした。ここより直近で訪れたR大陸王都フィラディノートの人の多さや、シェーラザードの自然豊富な温かさの方がフウ君としては好ましく思えます。 「今更なんだけど、こうやって町がいきなり現れるのって何が条件なんだろう」 「外の世界を旅してるボクの兄が見たことある、行ったことある町しかこの世界には現れないからね。たぶん今頃、初めてのノエリアック観光漫喫してるんじゃないかな」 「兄?」 「うん。ソウっていうんだ」  ノア君は適当な想像でおっしゃってますが、私がこうして眠って彼らを眺めているということは彼は就寝の時間でしょう。 「ボクは傀儡竜だから、神竜族に都合よく動かしていい人形みたいなものなんだよ。だからソウ達が作ったこの世界がきちんと機能しているか確認するために旅してるんだ。ボクの印象としてはそれなりに出来てると思うんだけど……この世界は君のために作ったものだから、フウが喜んでないなら失敗かもしれないね」 「……そんな扱いされて、しんどくないのか……?」 「そりゃあもちろん、ボクだって感情のある人間なんだから何も思わないわけじゃないけどね。でもどういう事情でそうなったか知ってるから仕方ないかなって思えるよ。それに……ボクはソウの側にいられないけど、同じ場所を見て、一緒に旅してるみたいな気持ちになれるからちょっと嬉しい……かな」
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