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店内に入ってみると、動物だけではなく男の子や女の子の人形もあることがわかりましたが、全てぬいぐるみです。同じ人形でも陶器製で髪の生えた精巧なもの、木製で糸のついた操り人形など多様だと思うのですが、そういったものは置いていません。純粋にぬいぐるみ専門店ということなのでしょうか。
お食事以外の用事でお店に入るのも本当に久方ぶりで珍しいことだったので、並んでいるぬいぐるみを興味深く眺めていたのですが。会計台の周辺に集まっているくまのぬいぐるみのひとつに、再び目を奪われてしまいます。
「この辺はくまのぬいぐるみばかりだな。わざと集めて置いてるのかな……イリサ?」
呼ばれているというのにもはや返事をするのすら忘れてしまっている私の目は、ただひとつのぬいぐるみに釘づけにされています。傍から見ていてコウ君にもそれは丸わかりだったみたいで。
「これがそんなに気になるのか」
まさしくその、気になって仕方がないひとつのぬいぐるみを手に取りました。空色をした、ふわふわの毛並みのくまのぬいぐるみです。いえ、私は実際には触れないので、ふわふわの手触りなんだろうな。触ったら気持ちよさそうだな……って夢想してしまうだけなのですが。
「ええ……あんまりかわいらしいものだから。一目ぼれしてしまいました」
可愛いのはもちろんそうですが、それだけではありません。遠い昔の、大切な人達との懐かしい日々の思い出が、その子を見ていて蘇ってしまい……愛しさと同時に、何とも言えない切なさが湧いてしまって、胸が詰まるようでした。
「そんなに良い物を見つけたのに、なんだか泣きそうな顔してないか?」
「そんな顔……」
「お客さん、もしかして妖精さんでも見えてるのかい?」
男の人がたったひとりでお店に入るだけでも珍しいでしょうに、誰かと会話でもしているような独り言を繰り返している。お店の奥から出てきた店長さんと思わしき初老の男性は怪訝な顔です。とはいえ、こういうお店のお客さんには少し変わった方も来られるでしょうから、露骨な態度は見せません。
「おっ? お兄さんその髪いい色してるねー。紅いの好きなのかい? ちょうどそんな感じの良い色出せたのがあってねぇ」
「それはいいや。自分のじゃなく人にあげるもの探してるんで。これ、ください」
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