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オアシスクラゲってなんですか?
「おはようございます、ツバサ様! ……あら。ヒナもご一緒だったんですね」
昨夜はお楽しみでしたか? と訊ねたら、彼女は無言でベッドから立ち上がり。つかつかと歩み寄ってきて私のおでこを指でぴんっと弾きました。手加減なしの全力なので痛いです。
「この格好を見なさいよ。部屋の掃除に来ただけってわかるでしょ?」
言われてみれば、ヒナの出で立ちは今私が着ているものと同じ。我々、使用人がお給仕する際のありふれた白い着物でしかありません。あの晩に彼女の纏っていた美しい、半透明の寝巻とは全然違いましたね。なんてことを考えていたら、「いちいち思い出すんじゃないっ」と、赤面したヒナに叱られてしまいました。どうして私の考えがわかるんでしょう? 不思議です。
そんな私達のやり取りを、ツバサ様は寝台の上から眺めていました。何か笑いのつぼを突いてしまったのか、お腹を抱えて笑いをかみ殺そうとされているご様子。
「おはようサクラ」
と言っても、実はもうお昼時です。私がツバサ様にお会いするのは昼食のお世話からであることが多いのですが、慣例としてどの時間にお会いしても「おはようございます」とご挨拶する決まりです。私がこのお城でお勤めすることが決まってから、給仕長からそう言いつけられました。
私の名は桜隣ですが、親しい人達からはサクラと呼ばれています。これもいつから、どなたからそうなったのか覚えがないんですよねぇ。
私が食事の盆を持っているのを見て、ツバサ様はベッドの縁へと居住まいを正されます。じゃり、という、鎖のこすれる音が響きます。いつも通りの日常風景ではあるのですが、この音を聞くと今でもやはり心が痛むのを止められません。
見ると、私の両手が盆で塞がっているのを見たヒナはツバサ様のための折り畳み式の食卓を準備してくれているところでした。
「ありがとうございます、ツバサ様、ヒナ」
盆を卓へ置きます。中身を隠す蠅帳は私の自作です。市場で布を探して縫いました。ツバサ様のお好みの布を探そうと思ったのですが、私の好みの布を使ってよいとツバサ様がおっしゃるのでお言葉に甘えさせていただきました。白を基調とした布地に、黄色い小花がうるさすぎない範囲に散らばっています。もっと派手な布も好きなのですが、あくまでお料理の添え物ですので無難なものを選ばせていただきました。
「今日はどんなものを持ってきてくれたのか楽しみだな」
私の毎日の楽しみは、ツバサ様の昼食に毎日変わったものをお出しするため、朝市で珍しいものを探すことです。
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