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ツバサ様はこの一室に捕らわれの身です。左足の足枷から鎖が伸びており、鉄製の寝台に頑丈な鎖で繋がれています。偉い人達に悟られぬよう様々な道具で鎖を断とうと試みたこともあるのですが、どんな道具を用いても鎖を切ることは叶いませんでした。
砂漠の真ん中に立つ都、クラシニア。その中枢にある城の最上階。眺望には優れていますが、それは地獄の底から見上げるひとつ星程度の救いでしかありません。地下での幽閉より遥かに配慮されている、そうだとしても閉じ込められている事実に変わりないのですから。
なので、少しでも日々の変化を感じられたらいいなぁと思いまして。城の調理場で正式に用意されている料理とは別にもう一品、私が市場で見つけたものをおまけで添えさせていただいているのです。偉い人からの許可を取り付けるのは大変でした。毒見は必ず、私自らが行いますと誓ってようやく許可をいただけたのです。
「今日は自信がありますよ!」
じゃじゃーん、と満を持して蠅帳を持ち上げます。小鉢には透明なお刺身が……あら? 時間経過のせいなのか少し茶色に変色してしまいましたね。調理場で捌いた時にはもっと透明度が高かったのに。
「ちょっと……何よこれ?」
「これは都の外れのオアシスで捕まえた、オアシスクラゲというものです。食用として試みられたことはなかったのですが、異常繁殖して困ったので試しに食べてみようかということになったそうで」
商人さんが市場でたくさん売っていましたが、遠巻きにする人が多かったようです。私はとりあえず味見をさせていただいて、面白い食感なのでは? と思い仕入れました。
「珍しかったらなんでもいいってもんじゃないでしょうに。ツバサ様に変なもの食べさせていいの?」
「害はないと思いますよ? 朝方、市でも味見をしましたが何ともありませんもの」
「あなたの体の頑丈さは尋常じゃないから当てにならないわよ……」
「とりあえず、色が変わってしまったのでもう一度味を見させていただきますね」
ツバサ様に失礼しますと断って、私は身に着けた道具入れから自分の箸を取り出し、クラゲを一切れいただきました。問題なさそうです。変な味も匂いもなく、調理場で毒見した時からの変化もなし。
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