27人が本棚に入れています
本棚に追加
「危ないものはもちろん出しませんし、試し買いしても美味しく作れなかったらお出ししていませんよ?」
「不味くないなら何でも出してくれていいって言ってあるから大丈夫だよ」
「……ツバサ様がそうおっしゃるなら、いいんですけど」
「せっかく同席したんだし、君も食べてみる?」
「はい!?」
ヒナはツバサ様の側室のひとりです。側室といっても本妻様がおられるわけではありません。
私よりは認められた立場であるとはいえ、ツバサ様のお食事に手を付けるなど畏れ多いと、ヒナは絶句してしまいました。
「毎日毎日、楽しむために用意してくれてるんだからさ。なんだっていいんだよ」
「そうですよ! ツバサ様がせっかくおっしゃってくださるんですから」
「本当にそれでよろしいのでしたら……」
もちろん、ツバサ様はご自分の手でお食事も出来るのですが、私の用意したおまけに関しては私が箸で口に運ぶことを許してくださっています。はい、あーんとお声かけをしたら目を閉じてくださいます。
口から舌を出したりはされず、私は口内の舌の上にそっとくらげをのせました。目を閉じたまま噛んで味をみておられます。
ツバサ様のものではない、先ほど使った自分の箸を使って同じようにヒナにも食べさせました。
「う~ん……こりこりして、面白い食感だけど」
「味がしないんじゃない……?」
「はい! まだ発展途上の珍味ですから。調味料を工夫してどうやって美味しく食べようか、これから考えようと思いまして」
「あなたねぇ……」
でも、それをツバサ様がよしとされているのよね? とヒナから疑問を投げられます。そうだよー、そうですよー、と、私とツバサ様の答えが重なりました。
「こうやって試行錯誤してる彼女を見るのも、なんだかんだで俺の毎日の楽しみなんだよね」
「……そうですね。この城には彼女みたいな能天気、そんなにいませんから」
「えぇー?」
「安心して。褒め言葉だからね」
この城、街に限らず、このグラス大陸は戦時中です。あちらこちらで武力衝突が起こっていて、この城の人達もピリピリしている方々が多いのです。
何気ないものでも、一日一日、ちょっとずつの変化。ツバサ様には必要なことだと思うんですよ。
最初のコメントを投稿しよう!