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ソウジュ様と生きた日々
遠征部隊の凱旋に、城下の町がざわめき始めました。
「それではツバサ様、私はいったん失礼いたしますね」
「別に気にしないから、サクラもここで待てばいいのに」
「そういうわけにはまいりません! せっかくツバサ様とソウジュ様がお話しされるのに、邪魔をしたくありませんので」
この部屋から出られないツバサ様のために、ソウジュ様が外の世界で見た景色をお土産としてお話しされていることを私は知っています。そのお話しがなが~い時もあれば短い時もありますが、どちらにせよお側で一緒に聞いていたら、私も思わず横槍を入れてしまいそうになります。
「ソウ兄との付き合いは君の方が長いんだから、俺に遠慮することないじゃないか」
ツバサ様はソウジュ様の弟君ですが、幼少のみぎりよりこの城に捕らわれておいででした。ソウジュ様は外の世界で過ごされていて、幸運にも私はソウジュ様と共に育てられました。
幼少の頃、私は親も知らず、他の大人の助けも知らず世界をさ迷い歩いていました。そんな状態では食べることもままならず、どのように生きていたかといえば。
なんのことはありません。私は二十回目の誕生日には死ぬ体ですが、逆にその日を迎えるまでは決して死なない体なのです。何ひとつ口にせずとも死なずにさ迷い歩いていただけなのです。
ゆえに、物を食べるという行為さえそもそも知りませんでした。そんな私を見つけてくださったのがソウジュ様と私の養父にあたる男性です。
私が生まれて初めて口にしたのはバナナでした。ソウジュ様は片手にリンゴを、もう片手にバナナを持ち、どちらにしようかな? と思案されていました。最初から固い物を食べるのは難しいかもしれないとおっしゃって、バナナの皮をむいて、さらには匙で小さくして口まで運んでくださいました。
その時食べたバナナの味は一生忘れられません。あんまりにも美味しくて。口の中いっぱいに広がる甘さに、感動の余り卒倒してしまいました。ソウジュ様は生まれて初めて体内に入れた栄養なのに過多だったのでは、と本気で心配されて涙目になってしまい、私も申し訳なく思いました。赤子に与える離乳食のようなものの方が良かったのではとおっしゃいましたが、私としては大切な思い出の味になりましたので心から感謝しています。
このようにソウジュ様は心根の優しい穏やかな方で、本当は争いも、武器を振るうことも好きではありません。ですが、養父はソウジュ様に厳しく戦いの術を指導してきました。
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