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私とソウジュ様はいつかクラシニアの城に入り、ツバサ様をお守りしなければならない。養父は私達に何度もそう言い聞かせ、そのために必要な全てを指導してきたのでした。
「ソウジュ。おまえはツバサ様を弟と思って彼をお守りしなさい。ツバサ様は太陽竜様で、おまえは白銀竜様なのだから」
養父がこのように言うということは、ソウジュ様とツバサ様は本当の血縁のご兄弟ではないのかもしれません。
ツバサ様が捕らわれの身であるのにソウジュ様がご無事であったのは、クラシニア王家が太陽竜様の神器を所持していたからです。クラシニア王家は自らの手の及ぶ範囲で生まれた全ての赤子に、神器を触れさせました。その中でただひとり、ツバサ様だけが神器に反応し、親元から引き離され城に隔離されてしまったのだそうです。ツバサ様がクラシニアの領内で生まれなければこんなことにはならなかったのかもしれないと思うと、つくづく運命とは酷薄なものです。
今にして振り返れば養父は不思議な方で、ソウジュ様も私も彼の名前すら知りません。彼はなぜか白銀竜様の神器を所持しており、それをソウジュ様に授けました。
また、私にも。おまえが母神竜様であることは決してクラシニアの者に知られてはならないと言い聞かせました。母神竜様の神器はこの大陸に存在しないので、ツバサ様のような成り行きで誰かに知られることはないのだからと。
私達が城でのお勤めを果たせるであろう年頃まで育ててくれた後、彼は私達をクラシニアに置き去りにしていずこかへ去りました。それ以来、一度も顔を見たことはありません。今頃どこで、何をされているのでしょう。この時代にはせいぜい手紙くらいしか伝える術がないので、一度離れてしまった人と繋がるのは奇跡に等しい可能性でしか起こりえませんでした。
私がいかな時も不安を感じずにいられたのは、養父と離れた後でもソウジュ様がお側にいてくださったからです。今はソウジュ様は遠征に出されて離れることもありますが、その時は私にもツバサ様をお守りする務めがあります。
理由はわかりませんが女中仲間の多くは私を嫌っているそうで相手にしてくれませんが、ヒナだけは気安くお話ししてくれる友達のような関係ですし。調理場やそれ以外の務めの男性の使用人の皆様とはごく普通に仕事仲間として交流しております。
ツバサ様のお立場や、ソウジュ様の遠征での心労を思うと手放しで受け入れられる環境ともし難くはあるのですが。私は愛する人達のお側にいられて幸せでした。
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