グラス王国建国祭

1/4
前へ
/260ページ
次へ

グラス王国建国祭

 新暦三年、夏の盛りでした。私達は大陸の中央にあるグラス王国へ辿り着きました。  クラシニアを出奔してからゆうに三年以上経過しています。コウが二十歳を迎えるまでに、ツバサ様との約束の地へ辿り着けたのは幸いでしたが……。 「太陽竜様だったら確かに一度、グラス王家が招き入れたと噂があったね。白銀竜様の神器は献上されたと」 「でも、用事があるとかで、奥方様とご子息を連れて離れられたと聞いたけど……」  それが、城下町で得られた情報でした。 「どうされたのでしょう、ツバサ様……」 「わからないが、とにかくギリギリまでこの町で待とう」  ギリギリ、とは、つまり私かコウのどちらかが二十歳を迎えて体を失うまで。二人ともいなくなってしまってからではそーちゃんをひとりぼっちにさせてしまいます。  とりあえず、グラス王国の中の孤児院をいくつか回って、最も手厚く保護してくれそうな場所を選び、グランティス王家のシーちゃんがくれた書簡を託します。私達に万が一の場合は、そーちゃんを預かり、シーちゃんに連絡するとお約束いただけました。  ずっと目指してきた場所だというのに目的が達成出来なくて、私達は些か呆然としてしまい、確保した宿で脱力していました。いくら平和だったとはいえ、今まで働きづめ動きづめだったのですから、心身共に疲労が蓄積していたのかもしれません。  今までになく私達がだらけているのを、そーちゃんがちょっとだけ不思議そうな目で見ていました。 「ん~……」  うっかり、夕暮れ時まで、私とコウは寝台の上でうたたねをしてしまいました。頭も体もおかげですっきりしましたが、ひとりぼっちで窓のさんに肘をついて街並みを眺めているそーちゃんの後姿に、申し訳ない気持ちを抱きます。  どんな眺めでしょうと、そーちゃんの頭越しに見下ろしてみますと、街はお祭りの準備で賑わっていました。後で宿の御主人に訊ねてみたところ、明日は建国記念日で、一年で最も大きなお祭りが国をあげて開催されるみたいです。 「お祭りの遊びもお食事も割高ですけど、たまには楽しみに行きませんか?」 「いいんじゃないか。ソウもそろそろ自分から楽しめそうな年頃だしな」  無数の屋台が並ぶ中、そーちゃんが食べたいなぁとか遊びたいなぁと選ぶのはどんなものなのか。想像するだけですでに楽しくて口元がにやけてしまいそうですし、実際コウにも呆れ顔でそれを指摘されます。きっと私達にとって、かけがえのない思い出の一日になるでしょう。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加