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前提として、この度のお祭りはそーちゃんを楽しませてあげるためのもので、自分達自身では一切お金を使わないつもりでした。そのはずだったのですが、さっそく……。
「わ~! 見てくださいコウ! 大国の金平糖ってこんなにいろどり鮮やかなんですか!?」
テーブル全面に金平糖しか並んでいない屋台を見つけてしまいました。私の知っている金平糖は真っ白なお砂糖を小さく固めたお菓子でしたが、こちらには白だけでなく桃、薄黄緑、黄色、真っ青、紫……色が多すぎて花畑でも見ているようです。
「普通に作れば白であるはずのものに色がついてるんだろ? 余計な着色剤が入ってるってことなんじゃないのか?」
「お客さん達、飴ちゃん見たことないのかね? あれに色がついてるのは良くって金平糖はダメってのは違うんじゃないかね」
言いながら店主の男性は、すぐお隣の飴細工の屋台を指さします。おそらく経営者が身内で、金平糖が売れなくてもそちらに誘導しようという計らいでしょう。そちらの飴細工も大層素晴らしいものでしたが、私達のお財布には不相応で諦めるしかなさそうです。
金平糖も言うほど安くはありません。さして大きくない木匙一杯に銅貨一枚求められます。
「そーちゃんにもこの美味しさを味わわせてあげたかったですが、私の選ぶものでなくそーちゃんが選ぶものを食べさせてあげたいので……あら?」
そーちゃんが私の服の裾を掴み、くいくいと引っ張ります。背負ったカバンを前に持ち替えて、中から「食べたい」と書いた紙を取り出しました。
「こんな幼子に気を使わせるな……」
「……面目ない」
さすがの私も、この流れは少々恥ずかしいです。大人として。
せめてどの色の金平糖を買うかは、そーちゃんに選んでもらうことにしました。木匙一杯では物足りなさすぎるので、二杯。これも私達の会話を聞いていて気を使ったらしく、最初の一杯は白を選んでくれました。
二杯目は、真っ青な金平糖でした。店主さんが巾着型の透明な小袋に二色の金平糖を入れて渡してくれて、それをぶら下げたそーちゃんはご機嫌です。
「そーちゃんは青い色が好きですか?」
訊ねると、無言でこっくり頷きます。訊ねるまでもなかったかもしれません。そーちゃん自身の名前も蒼、髪色も青なのですから、思い入れが芽生えるのが普通ではないでしょうか。
中央通りは右も左も屋台が立ち並んで凄まじい人混みでしたが、これでも夜に比べたらまだ人出が少ないのだと町の人に教えていただきました。迷子になるほどではないでしょうが、念のためそーちゃんはしばらくコウが抱っこして歩きます。
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