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そーちゃんより小さな男の子がすぐ隣に立ち、どうやら同じ船のおもちゃを狙っていたみたいです。それもほぼ同時に輪を投げてしまい、船の真上でふたつの輪がぶつかってしまいました。
そーちゃんの輪が船をすっぽり囲み、あさっての方向に弾かれてしまった小さな子の輪が、空色の毛のくまのぬいぐるみに落ちました。ふたりとも無事に景品が得られたのは良かったと思うのですが……。
「うわぁ~~ん、ぼくがほしかったのに~~」
男の子が泣きだしてしまい、後ろにいたお母さんに「わがままを言うんじゃありません」と叱られて、さらに声を大きくします。
そーちゃんはすっと、男の子に船を差し出しました。さすがに男の子も気が引けたのか、「いいの?」と声を出します。返事が出来ないそーちゃんは困り顔。しかしすぐ気を取り直して、カバンから紙を取り出し。
『そっちがいい』
と書いて見せます。男の子は文字が読めなかったみたいですが、お母さんが「ごめんなさいね、本当にありがとう」と言ったのを聞いて顔を明るくします。
「おにいちゃん、ありがとー!」
大切にするね! と大喜びで、何度も振り返りながらそーちゃんに手を振っていました。
偉かったですね、そーちゃん。そう誉めてあげようとした矢先、そーちゃんのお腹がきゅーっと鳴りました。『おなかがすいた』という紙を出して見せてくれます。
食べるものもそーちゃんに選ばせてあげたかったのですが、ゆっくり選べる状況ではなくなってしまいました。ざっと眺めまわして、普段の食事では見かけない、お祭りならではの食事をいくつか適当に買いまして、宿に帰ることにしました。
本当にそーちゃんは船よりぬいぐるみが良かったのか気になるのですが、訊くのは無粋でしょうか。そーちゃんに聞こえないよう、こっそりコウに耳打ちして相談しましたが、やはりコウも「訊くのはやめておけ」とのこと。そうですよねぇ。
もっと幼いならまだしも、そろそろ男の子がぬいぐるみ遊びなど関心ないのでは。そう思いましたが、意外とそーちゃんはくまのぬいぐるみでひとり遊びをしている姿を見せてくれました。思えばそーちゃんの遊び道具は紙と筆ばかりでしたから、ぬいぐるみといえどもほとんど初めて得られた、自分だけの玩具だったのかも……。なんだか無性に、申し訳ないような気の毒なような。
こんな暮らしの中でまっすぐ優しく育ってくれたのは、本当に得難くありがたいことだなぁと思いました。
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