27人が本棚に入れています
本棚に追加
愛しています
グラス王国の感染、発症しなかった人々が幸せだったかというとそうでもありません。無事だからと他国へ逃れようとも、グラス王国を襲った感染症はすでに国外へ知られていました。国境を超えることは許されず、見つかり次第射殺されたそうです。国に残ったところで一気に人口の大半を失っては国を維持出来ず、グラス王国は滅びへ向かいました。
私はもはやなんの希望もなくグラス王国の路上で座り込んでいました。日に日に周りに遺体が溢れていきますが、誰も片付ける余裕などありません。
空からちらちらと雪が降り始めて、季節の移り変わりを知りました。時が流れていく感覚などとうに忘れていましたから……ついでのように、私にも終わりが迫りくることを思い出します。
私の体がどのような最期を迎えるのか知りませんが、せめて、コウとそーちゃんがいなくなったあの場所まで戻りたい。そう思って私は歩き出しました。
雪も降るような天候ですし、太陽は高い位置にありそうな時間ですが空は雲で覆われて真っ白でした。目印である細い枯れ木をようやく視界にとらえた時でした。不意に私の体は力を失い、前に倒れ込んでいました。
投げ出した手のひらへ目をやると、指先の方が肌色を失って透けていました。指先から消えていく、というわけではなさそうな気がして、身を起こし両手を目で確認します。
「……水……?」
人差し指の先をぺろりと舐めてみます。汗の味よりももっと強い、塩の味がしました。……母神竜ですから、この体は最期に海に変わるということなんでしょうか。
すでに自由が利かなくなりつつある体をどうにか動かして、足先を確認してみます。靴は脱げていませんが、足首まですでに水に変わりつつあるようです。
「はぁ……」
この足ではもう歩けないでしょうね。思わずため息が出てしまいます。
あの木の根元まで行きたかったなぁ……いえいえ、まだ諦めるのは早いのでは? 例えばまだ手のひらは無事なので、手のひらと膝で這いずるようにして前進出来ないでしょうか。
思い立ったらすぐに、手のひらを草の生えた地面に着けました。すると、手のひらの下の草が青く染まります。……なんでしょうね、これ。そう考えた刹那、体はまだ水に変わりきっていないというのに、一気に全身が脱力して倒れ込みました。体のどこにも、力が入りません……。
最初のコメントを投稿しよう!