思い出の味が増えました

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思い出の味が増えました

 さてさて、ツバサ様に殊勝なことを申し上げました私ですが。ソウジュ様がツバサ様のお部屋に入られたのを気配で察しますと、さっそく扉の横に立ち、お話しの終わるのを待つことにしました。  もちろん、盗み聞きなどいたしませんよ? 仮にそのような企みをしようとも、この城の壁は室内の会話が廊下に漏れるような作りはしておりません。偉い人達の密談などもあることですし。  しばらくして、ソウジュ様が出てこられました。 「ソウジュ様! おかえりなさいませっ」 「あ……」  ご挨拶申し上げてからお辞儀をして、改めてソウジュ様のお顔を拝見しましたが。遠征の直後のソウジュ様はいつもお疲れのことが多いのですが、いつにもましてお顔色が優れないような? 「ただいま、サクラ。……そうだ、手を出してくれないかな」  胸の前に手を重ねて差し出しますと、ソウジュ様はそこへ小さな袋を置かれました。 「こちらは?」 「兵に配られた非常用の保存食でね。糖分補給のためのものだから甘くておいしいよ」  食べきれずに残ったものだからあげるよとのことですが、袋はずっしり重く、ほとんど召し上がらなかったのではないでしょうか。 「でしたらお茶を淹れてお持ちしますので、ソウジュ様がお部屋で召し上がってはいかがですか?」  せっかくなのでツバサ様のお部屋でご一緒したら、と思って失礼ながらお部屋を覗き込んだのですが。ツバサ様はなんというか、どこか呆然としたような面持ちで身動ぎもせず寝台の上に固まっておられ、お声掛けするのが憚られるような気がしました。 「桜隣……ソウジュ様はお疲れだ。今日はお一人で休ませてさしあげよう」 「いや、いいんだ。そう言ってくれるなら、僕は部屋で待っているから」 「はい!」  ソウジュ様のお側仕えの使用人、小唄(コウタ)に叱られてしまいました。  ソウジュ様が廊下の角を曲がられて、姿が見えなくなるのを見計らうと、小唄は露骨に胡乱な顔で私を見下ろします。あ~あ、また不興を買ってしまいました。
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