青の草原は神々の揺篭

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青の草原は神々の揺篭

「まったくもう……いい加減目を覚ましてくださらないこと?」 「わ……?」  誰かが私の肩を揺すっています。聞き覚えのない声と共に、私を永い眠りから覚まそうとしています。  元来、私は寝起きは悪くなかったはずです。朝目覚めたら即座に、それはもうしゃきしゃきとお勤め出来ると評判でした! はずなのですが……。  どうしてなのか今は、この目を開けようという気持ちになかなかなれません。「寝起きが悪い」というのはこういう感覚なのでしょうか。 「もしかして、目の開け方を忘れてしまったのではなくて? 仕様のない方ですわねぇ」  手伝ってさしあげますわ、と告げた誰かが、私の瞼に指先を押し当てて、無理やりに持ち上げました。  青いリボンを鉢巻状に巻いておでこを出した、短髪の女の子。私も生前身にまとっていた、ごくごくありふれた旅装のローブをまとっています……青い色のローブ、はあまり一般的ではないかも。少なくとも私は見たことがありませんねぇ。  濃い橙色の髪にわずかに赤い色も混じって、陽の光を跳ねて時折輝いて見えます……。 「初めまして。私はイリサです」 「それはもう何度も耳にしましたわ。寝言で定期的におっしゃってましてよ?」 「寝言? 定期的?」 「わたくしがこの地に着いてからもうしばらくになりますけど。このお寝ぼけさんはいつになったら起きるのかしらと観察してましたの」  さすがに三年も待ったら飽き飽きしてきて、無理にでも起こすことにしたというわけです。ちょっと恨みがましい目で、彼女は私を見下ろします。 「それは申し訳ないことをしてしまいました」 「ま、わたくし自身の失策ですもの。謝る必要はございませんわ」 「それで、あなたはどなた様ですか?」 「わたくしの名はエルトロン。天空竜ですわ。ちょうど人間として生きていた頃の名は『エル』でしたので、今後もそう呼んでいただいて構わなくてよ」  呼ばれ慣れているかつての名前と、現在の名前が偶然に一致したとのこと。そういうことでしたら遠慮なくそう呼ばせていただきましょう。 「これからよろしくお願いしますね、エル!」 「こちらこそ。それよりやっと起きてくれたのだから、言いたいことがたくさんありましてよ?」 「はい? なんでしょうか?」 「……おとぼけになっている、というわけでもなさそうですわねぇ」  どこか納得がいかないような顔で、エルはう~ん? と呻いています。
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