青の草原は神々の揺篭

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「あなた達のおかげで地上はこの百年、大変な騒乱でしたのよ?」 「地上?」 「そこからお話ししないとわかりませんの? でしたら話に聞くより、直接見た方が早いですわね」  エルは私に両手を差し出します。私より小さな手のひらでした。 「……こう見えて、わたくしも人として二十年生きましたのよ?」  どうやら、幼く見える外見や、それを指摘されることに辟易しているご様子。心苦しいですが私も、幼げでかわいらしいお嬢さんだなぁというのが第一印象でした。  私は一本の細い枯れ木を背もたれのようにして、長らく眠っていたみたいです。  差し出してくれた手を取ります。エルはきっとこうなることを予期していたのでしょう。彼女の言う通りなら百年? この場で眠り呆けていた私は、すっかり動き方を忘れていて、立ち上がることさえ難儀しました。自分より体格のある者を手を引いて立ち上がらせるのに、エルは苦心しています。 「ほんっっ……とうに手のかかる方ですわねっ。先が思いやられますわー!」 「面目なーいっ!」  私が至らないばかりに、出会ってすぐの相手に見放されてしまいそうです。さすがにそれは悲しすぎます。何しろ私達はこの世にたった十一人だけの仲間なのですから、仲違いなどしたくありません!  なーんちゃって、冗談ですわ。私が無事に立ち上がると、エルはぺろりと舌を出してそう言いました。冗談というより、解決したら即座に水に流してくれる性格みたいです。さっぱりしています。  こちらへいらっしゃいな、と、今度は片手を繋いでゆっくり歩き出します。立ち上がるのと同様、私の足取りがおぼつかないのを察してくれて、一歩ずつ急がず進んでくれます。  周囲は全ての草が真っ青に染まった草原でした……私が眠りにつく前、最後に……ソウジュ様の腕に抱かれながら、薄れゆく意識の中で見た景色とそう変わらないような気がします。  ただ、風が、あの時より強いです。そして遠くに小さく見えていたグラス王国の王宮が影も形も見えません。そうした疑問を呟いてみますと、エルが答えてくれました。 「グラス王国なんてとっくの昔に滅びましてよ。そうしてこの地殻変動の際に、最も大きな影響を受けたのもまたグラス王国でしたわ。何しろ割れていく地面の真上にあったのですものね」 「地殻変動……ですか?」  だから見た方が早いと言ったのですわよ、と、どうやら私は彼女の杞憂していた通りの反応を返しているみたいです。ちょっとだけお口を噤んで黙って歩いてくださいまし、と釘を刺されてしまいました。
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