青の草原は神々の揺篭

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「おわかりになって? わたくし達、単身ではこのグラスブルーを出ることは叶いませんのよ」 「グラスブルー?」 「この、天上に浮かぶ青い草原のことを、下界の人々はそう呼びますの」 「グラス王国の魔力だまりが青く染まったからついた名前でしょうか」 「的外れでしてよ。この青い色は魔力だまりでなく、あなた……イリサの、母神竜の魔力の色ですわ。自分のことなのにお忘れですの?」  エルは自分の纏うローブの裾をつまみあげます。このローブも頭に巻いたリボンも、本来は白い色だったのが、グラスブルーにやって来た時に青く染まったのだそうです。  それを聞いて私も自分のローブを改めて見てみますと、数か月着たきりでさ迷い、白から薄汚れた灰色に成り果てていたはずのローブは真っ青に染まっています。清潔感すらあります。  恐る恐る、髪を飾っていたサクラ色のリボンを外して確かめてみますと、これも青い色に染まっていました。ああ、ソウジュ様からいただいた、私の宝物が……。今の自分が置かれた境遇より何より、その事実が悲しいです。 「私達がここから出るにはどうしたら良いのでしょうか」 「それはもちろん、神竜の体の持ち主がこちらへ辿り着き、その体に入れてもらうほかにありませんわ」  巨神竜様の体のシーちゃん、巨神竜様の魂のヒー君がひとりになったのと同じに、私達にはこの魂を受け入れてくれる体の持ち主がいるはずです。その方の来訪を当てもなく待ち続けなければならないということですか。う~ん、先行きは暗い気がします。 「そういった成り行きでしたら……コウは?」 「コウ? 誰ですの?」 「夢幻竜様です。私より数か月ほど先に体を失いました。エルの言う通りでしたらここに来ているはずではないですか?」 「夢幻竜でしたら名前は『クエス』ですわね。あくまでわたくしの推測ですけど、会いたいのでしたら、もう一度お眠りになってみては?」 「夢の中でなら、会えるのでしょうか?」 「可能性の検証ですわ。せっかくですからわたくしも試してみようかしら」  私はエルと共に枯れ木の根元まで戻り、今度は地面に直に横になって空を仰ぎ見ます。先ほど目覚めたばかりだというのに、また目を閉じました。  早く、彼に会いたかったです。お別れのあの時、ひどく悲しみ、涙に暮れていた姿が忘れられません。今はどのような気持ちでいるのかが知りたくて……もしあの頃のままの気持ちでいるのなら、少しでも気持ちが楽になるよう、慰めてあげなくては……そう思っていました。
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