巷で噂の源泉竜様です

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巷で噂の源泉竜様です

 私が眠りにつき、夢に見たのは実際の地上の風景でした。 「ふわぁ~……ごちそうさまでしたぁっ」 薄い土の色と白色が混生する、腰まで覆う長髪。髪質はふわふわとして触ると柔らかそうです。女性体としてはかなり背の高い、そんな彼女は今世の源泉竜様のようです。  かなり以前から源泉竜様の魂を確保し、二十歳になるまで今か今かと待ち構えていました。待ち焦がれたその時を迎えると、魂を宿していた体は最期、一本の巨大な大樹になりました。  その木の根元で、別に膨らんでいるわけではないお腹を満足そうに撫でています。魂をその体に収めたことで、満腹感を覚えている様子。たぶん錯覚だと思うのですが……。  こうして源泉竜様……名前は「リリアンス」……彼女は完全体の神竜と成りました。これにて彼女の特徴である「無限に湧き続ける魔力」と「生命の創造」がどちらも行使出来るようになったはず。 「あれぇ? この大地にはわたしのか~わいい魔物達がいないじゃない。人間だけなの? そんなのつまんなぁ~い」  神話時代に源泉竜様が人間に相対する存在として創造した魔物達は、現在もかつての領地で与えられた役目を全うしています。ゆえに、その領地から海を隔て遥か彼方に位置するこの大地には、魔物は存在しませんでした。 「神器も羽もない今のわたしにはたくさんの魔物を当時の質のまま作るのは無理だけど……今のわたしに出来る精いっぱいの、新しい生き物を作ろっかな」  こうして彼女は新しく、魔力を糧に生きる「精霊」という種族を作り出しました。 「いーい? わたしのかわいい精霊達よ。人間が大勢するこの大地を、あなた達の支配で塗り替えなさい。それがあなた達がこの世に生まれた意味なのよ!」  彼女は人間しかいない大地で、人間だけが支配する世界に退屈を覚えたのです。「彼女自身が」支配したいという感情は一切なく、「精霊という新種族に脅かされる人間の世界」を眺めて愉しみたいがために、精霊を世に放ったのです。  悪気もなければ悪意もなく、ただ自分の楽しみのために行動する。創造した生き物達の争いで世の中を乱す。……そういう性質の方であるらしいというのはいつかどこかで聞き及んだ気がしますが、評判通りの方なんですねぇ。
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