思い出の味が増えました

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「申し訳ありません……」 「ソウジュ様がお許しになったなら、これ以上俺から言うことは何もない。それと、これを」  私の目の高さに、小袋を差し出しました。ソウジュ様のお持ちになっていたのとほぼ同じ重みです。 「妹に会ったら渡しておいてくれ」  小唄はヒナのお兄さんです。ソウジュ様、ツバサ様とは違い、同じ家……ヒナマル(雛丸)家で生まれた実の兄妹。  私にも至らぬところが多々あるので、小唄からは厳しく言われる機会も多いのですが。ヒナと話しているところを見ていると根は優しい方だとわかるのでそんなに怖くありません。他の女中達からの評判は滅法悪いのですが、そういう意味では私も仲間ですのでこっそり親近感を感じたりもしますね。  私は小袋の中身が何かは知りませんので、どのお茶と一緒に召し上がるのが最も口に合うのか想像出来ません。小唄に意見を求めた結果、熱々の緑茶が合うのではないかと思いそれをお持ちしてソウジュ様のお部屋を訪ねました。  ソウジュ様のお部屋には、ツバサ様とは違って小さな丸いテーブルと椅子が二脚備えられています。そして、ソウジュ様はいかなお疲れの時でも、寝台に横になって寛がれることがありません。弟君が寝台に縛り付けられて暮らしているので、無意識に忌避されているような気がします。実際に就寝する時以外はイスで休まれることが多いのです。  今日もテーブルに肘をつき、思案されているところでした。お声掛けすると手を膝の方へ移してくださいましたので、お茶と小皿を乗せた盆を置かせていただきます。  ソウジュ様は小袋の中身を小皿へ出してくださいました。 「お砂糖ですか? こんな形をしているのは初めて見ました」 「金平糖と言うそうだね」  粉砂糖でも角砂糖でもない、小指の爪さきよりも小さいデコボコとした形に凝縮されたものが小皿の上を転がります。袋の中身を全て出すと、真っ白な小粒で小皿が埋め尽くされました。 「……白銀竜様の見た『雪原』というのは、もしかしたらこういった感じだったのでしょうか」  ふと思いついて、そんなことを口に出していました。
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