形見の双子

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形見の双子

 私と一緒に、と言いながら、彼女は出産と引き換えに命を落としました。元より体が弱かったので想定の範囲内だったのですが、子供達は双子だったのです。ヒナの時も産後の予後が心配されたものの無事でしたが、こうなるのもやはり珍しくないのですね。  子供が双子だと聞いて、ユーリも覚悟はしていたのでしょう。やはり、双子の片方……弟のフウ()・ハセザワは赤い髪で生まれました。  父親も母親もいなくなった家でたったひとり、双子の寝顔を見ていたユーリは誰にも打ち明けず密やかに誓っていました。 「クーとリルの残した子供……必ず生き延びさせてみせる。その為に何を犠牲にしたとしても」  弟として思ってくれと言われていましたが、あくまで一線を引いていました。「自分を救ってくれたふたりの忘れ形見」として想うことで。  ユーリは心労の滲む顔で、双子のお兄ちゃんの方を抱き上げました。  その子の名前はコウ()・ハセザワ……。  この時点ではまだ誰も知りませんが、私たちにとって最も近く、大切な存在になっていく人だったのです。  その時、ただただお腹が空いたという理由だけで彼は泣き声を上げはじめました。ユーリは手慣れた動作でフウ君をおんぶ紐に背負い、コウ君を抱っこしたまま、いつもお乳を分けてくれるお宅へ向かいます。  さすがに赤ちゃんの頃だけは、彼は本能以外の理由で泣く必要はなかったのです……。
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