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涙の理由
コウ君はずっと泣いていました。
赤ちゃんの頃はもちろん、むしろその頃よりも今の方がずっと泣いています。もう六歳になるというのに、一日の大半を泣いて暮らしていました。
「フウ~、遊びに行こうぜ~」
双子の弟のフウ君は今日も、村の同年代の友達に誘われて外へ遊びに出かけました。もう家で泣きながらお留守番するコウ君をちらりとすら見ようとしません。
物心ついて間もなく……四歳くらいの頃にはまだ、フウ君がコウ君を心配する素振りを見せていました。五歳くらいには泣いてばかりの兄に、それを友達にからかわれるのにうんざりとし始め。やがて関心すら示さず見ない振りするようになりました。友達もフウ君自身の態度に、コウ君のことは存在そのものを無視するようになってしまいました。
コウ君はそんな周囲との関係を悲しむことはありませんでした。もっと深い悲しみに蝕まれていたから。その悲しみの正体を周囲の誰も知りませんし、コウ君自身にすらわかりませんでした。この時点では……。
この世界には孤児が多いので、きちんとした戸籍がなくても十歳を過ぎていると判断されれば、就ける仕事はいくらでもあります。ユーリもまた、血の繋がらない双子の弟を育てるため毎日働きに出ていました。
疲れて帰ってきた彼は真っ先に、コウ君の様子を見に行きます。いつも通りにコウ君はぐすぐすと泣いていました。
そんなコウ君の姿を見ても、ユーリはもはや無の感情です。機械的に、兄としての表情を作り、表面的にコウ君を慰めます。
「自分がなんで泣いてるのか、そろそろ理由わかったか?」
この質問も毎日のお決まりで、コウ君の返事もいつも同じでした。「ううん」と答えて、首を横に振る。
ところが。
「ゆめを、みる……だれか、ないて、る」
こんな生活を続けてもう数年になります。コウ君が初めて、意味のわかる何かを答えたのです。すっかり諦めきっていたユーリも久方ぶりに、心を動かしました。驚きによって。
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