ユウの最期

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ユウの最期

 ユーリが十九歳になると、彼はいよいよ弟達に別れを告げてアルディア村を離れることにしました。残された一年間、辺境の小村でしかない村での稼ぎよりも、少しでも多くの稼ぎを得るためR大陸の私設軍に入隊することにしたのです。間もなく養ってくれる大人を失ってしまうコウ君達のためにそう決断しました。  そこでは私にとっても懐かしい人に出会いました。ソウジュ様です。  ソウジュ様はどうやら私の最期を見届けてグラスブルーを離れて以来、自身の素性は隠しながら、各大陸に設置された王立軍や私設軍に傭兵として参加していたようなのです。ソウジュ様の体は人間のように老化も成長もしないので、長くても十年ほどの周期で所属する場所を変えていきます。  戦いなど嫌いだったソウジュ様がそうまでして軍属でいるのは何故なのか……ソウジュ様自身ではなく、ツバサ様のご意思のようです。たとえ望まぬ形で獲得した力であったとしても、ソウジュ様が努力によって身に着けた技術を損失したくなかったみたいです。  魂には記憶が、体には感情が宿る。神話時代より変わらない、この世界の理。  ソウジュ様の魂を宿すツバサ様の体はすなわち、「ツバサ様の感情にソウジュ様の記憶が宿っている」ことになります。  それは私が思っている以上に深刻で、危うい均衡をもたらしているのだということを、私はそう遠くない未来に知るのです……コウ君とあの子の出会いによって。  R大陸の私設軍、通称「支配軍」があるのはシェーラザード。農業の盛んな四方を山に囲まれた国です。  ここはなんと、桜の群生する「世界一桜の美しい名所」と呼ばわる場所なのです。私も思いがけず桜を見られそうでわくわくしていたのですが、ユーリは桜の咲く季節より前に二十歳を迎えてしまいました。  ちゃっかりおこぼれにあずかろうとした私がそれを見られなかったのは仕方ないとして。せっかく限られた生涯で桜の名所で暮らす機会に恵まれたというのに、一度もそれを見ずに死ななければならないユーリを思うと些か切ないです。彼自身はそんなものどうでも良さそうなので気にする意味もないんですけど。
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