ユウの最期

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 私と同じく孤児であったユーリは自分の誕生日を知りません。ただざっくりと、このくらいの時期かなとあたりをつけていたに過ぎません。  明確にその日であると自覚したのは、指先が消えかかっているのを見たからです。夜、寝間着に着替えようとして服を脱ごうとしたところで彼自身が気付きました。  ユーリはソウジュ様にだけは、自分が風神竜様であることも、アルディア村に双子の義弟を残してきたことも打ち明けていました。もちろん、支配軍の方々には内密に。  手の甲まで消えてしまわぬ内にと急ぎ足でソウジュ様のお部屋へ向かったユーリは、扉を叩いてソウジュ様を呼びます。 「最期に貴方に頼みたいことがある。付き合ってくれないかな」  ユーリはこのシェーラザードを最期の地にすると見定めた時から、国の中央にある小高い丘に立つ一本の大樹の根元をその場所にすると決めていたのです。誰にも看取られず消えていく……さすがにそれは悲しすぎます。それを頼めるのはこの国でソウジュ様を置いて他にいない、それも計算の上でした。  山の裾を囲うように並列する桜ですが、国の中央に立つのは桜の木ではありません。何やらとても縁起の良い木だそうで、この国の人々は結婚や誕生日のお祝いはこの木の下で、親しい人達で集まり宴をするのです。  幸い、というのもちょっと違うような気もしますが。その夜はお祝い目的でこの丘に集う人影はありませんでした。 「オレの誕生日と同じ日に、この国で良いことあった人いないんだなぁ……オレの生まれたこと自体、この世界にとっちゃあんま意味なかったし。縁起でもない日ってことかもね」  ユーリはなんだか自暴自棄になっているようで、自嘲気味にそう言います。こんな様子を見たのは、二十年近く彼を見てきた私にとっても珍しいです。 「君がいなかったら、故郷の弟達の生活は今以上に困窮したんじゃないのか?」  ソウジュ様はよくよく考えて、言葉を選んでそう問いました。血縁のない弟に半生を捧げたユーリの境遇は、ソウジュ様とツバサ様の関係に通じるものがあったから、彼に共感するところもあったのです。
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