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「逆だよ、逆。オレがいなかったらコウとフウは父親を失わなくて済んだんだから」
母親は双子を生んですぐ亡くなったけれど、自分がいなければ父親を亡くすことはなかった。せっかく統一軍から逃れて自由の身になったというのに、彼はその罪悪感に縛られ続けていました。
ユーリは服の下に、十年間、密かに木製の十字架のネックレスを下げていました。弟達にすら極力、目に触れないようにしていたものです。それを取り外そうとしますが、彼の体はもう腕まで消えかかっていました。もはや自分で外すのは不可能と気付いたユーリは、ソウジュ様に頼んで首から外してもらいます。
「アルディア村のコウ・ハセザワに渡してくれないかな」
「これは?」
「統一軍に入隊すると支給される、個人の識別標。裏に名前が刻まれてる。コウとフウの実の父親の名前がね」
それを聞いてソウジュ様が十字架をひっくり返すと、K.HASEZAWAと彫られています。船で別れる際にクウ・ハセザワに託されたものです。
「あいつらが両親どっちも亡くしたのはオレのせいなんだから、オレが責任もって世話してやんないと……そう思ってやってきたけど……最後の一年間だけでもいいから、自分ひとりになりたいって思ったんだよね……」
それが自分の責任だとわかっていてもなお、彼は疲れ果てていたのです。彼自身も子供であった時分から、幼い弟達の命を預からなければならないこと。自分が統一軍を出たいと願い、親切にしてくれた人に飛びついたばかりにその命が失われた事実を背負って生きること。
本当の本当に心から疲れていたから、少しずつ消えていく自分の体を見ても怖れるどころか、解放感すら覚えていたのです。
「ああ……いいなぁ。何もかも無くなるって。もう二度と、疲れたなぁって思わなくていいんだ……体も、心も……」
ユーリの体は塵のように分解されていくわけではなく、存在そのものが消失していきます。巨神竜様のヒー君の体が土になって残ったことをシーちゃんは喜んでいましたが、ユーリにとってはそうではなかったみたいです。
体が残ってしまえば、コウ君達なりソウジュ様なりにその後始末を頼まなければならないという理由もあったのかもしれませんが……。
こんな風に何の憂いも無く彼は消え、ユウ・ハセザワの生涯は終わりました。
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