無関心竜

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無関心竜

「イリサ、イリサ。起きてくださいまし!」  こうなる予感はあったのですが、私はエルに起こされました。このグラスブルーに久しぶりに新しい仲間が現れたのですから、エルが共に出迎えようと思うのも無理からぬことです。  そんな彼女に予想出来なくて私には出来る判断材料があります。私達の前に歩いてきた風神竜ユーリーンは無の表情で、「お会いできて嬉しいです」とはとても言いそうにない顔でした。無になって消えることを喜んでいた彼にとって、この状況は別段、望んでいなかったのでしょう。 「クエス・グラスブルー。聞こえているか?」  私達への挨拶もなく、虚空を見るように少し目線を上へとやってユーリは呼びかけます。 「オレはユーリーン・グラスブルー。オレもそっちへ行きたい。入れてくれないか」  私にもエルにも、彼の言動はよくわかりません。首を傾げる暇さえないまま、変化が見えました。  彼の足もとにぽっかりと、水たまりのような黒い影が出現しました。魂のみの存在で実体のない私達には影がありません。何もなかった場所に突如、湧いたのです。  その影がユーリの足首から徐々に全身に侵食し、真っ黒になった後で少しずつ影に飲み込まれていきます。それは夢幻竜のクエス……コウが最期に消えた時を思い出させました。 「なんですの~? 愛想のない方でしたわね」  それにはこんな事情があるみたいで、ということは私からエルに話しました。代わり、私にわからなかったことを訊ねるとエルが答えてくれます。 「さっきユーリの言っていた、クエスのところへ行きたいってなんのことでしょう?」 「あなたがその目で見たのではなくて? クエスは最期、影になって飲み込まれて消えたのでしょう。先ほどのユーリーンと同じくね」 「はい。そっくり同じでした」 「夢幻竜とは、この世界そのものの影。グラスブルーは今や世界の中心であり全ての源。すなわちクエスは、グラスブルーの影になったのですわ。この大地に飲み込まれてね」  グラスブルーの地中にあるのは単なる地面だけではなく、影の世界があるというのです。ユーリはそこへ行きたいと。 「行って……それからどうなるのでしょう? それでクエスが少しでも寂しくなくなるなら私としては喜びたいんですけれど」 「そんな能天気な……なんの問題もないならわたくしだってとっくにあちらへ行ってましてよ」  まぁ、薄々何か問題があるんだろうなぁというのは私だって察しておりましたとも! そういえば私が能天気って呼ばれたのも実に数百年ぶりだなぁと意味なくしみじみ思ってしまいました。
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