夢へ堕ちる階段

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夢へ堕ちる階段

 ユーリの遺体は形が残らなかったため、彼が公的に死亡したことが証明できず、彼が最後に所属していた支配軍の担当者を煩わせました。  事情を知らない普通の人からしたら、ただ軍での生活に耐えかねて逃げ出しただけにしか見えません。とりあえず、彼のお給料はそのままアルディア村の弟達に送金されていましたが、失踪扱いになって即座にそれは止められました。  支配軍からはユウ・ハセザワが失踪したことを伝える簡単な書面が。ソウジュ様からは彼が死亡したことを伝える個人的な手紙が発送されました。  ソウジュ様は「遺品をコウ君に渡して欲しい」という遺言を果たすため、近々支配軍を辞めてP大陸アルディア村へ移動するつもりでいました。けれど、辞めると決めてすぐに辞められるような組織ではなく、諸手続きにしばらくかかります。  その、些細にも思える時間差のために、幼い兄弟に悲劇が起こってしまうのでした……。  アルディア村のコウ君達からしたら、兄が死んだと知らされ収入もなくなった。支配軍からの送金によってある程度の蓄えはあったものの、いつかはそれも尽きるでしょう。彼らはまだ八歳で、すぐにお勤めは出来ません。  その日、ハセザワ家の隣家に住む少年、カイン・リークイッドが彼らを訪ねてこんな相談をしていました。 「おまえらにだったら空いてる部屋ひとつ、タダで貸してやってもいいって。うちの姉貴がそう言ってる」  カイン君のお家は宿屋です。別に繁盛していないわけではないのですが、お祭りシーズンでも部屋が全て埋まったことはないので、部屋が空いているというのは嘘ではありません。  カイン君の年の離れた姉、ネイル・リークイッドは、幼い頃はコウ君達の父に、ここ十年ほどはユウ・ハセザワに好意を抱いていたので、遺されたコウ君達に手を差し伸べたかったのです。 「家を売る……までする必要はないだろうけど、おれん家に住んでそっちの家はしばらく誰かに貸したら? そうすりゃしばらくは食費には困らないくらい入ってくるってよ」 「おれは……いやだ。ユウにいが言ってたんだ。死んだお父さんにとって、この家は宝物だったんだって」 「まあねぇ。姉貴もおまえらのお父さんから聞いたことあるって言ってたし、よっぽどなんだろうけど。だったら現実問題、これからどーすんの?」  カイン君はフウ君とは親しい友達ですが、コウ君とはほとんど話したことがありません。俯き、黙りこくっているコウ君を一瞬だけ窺いますが、すぐにフウ君の方へ視線を戻します。
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