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貯金が尽きるまでにどうするか考えておけよな~、そう言い残してカイン君は自宅へ戻りました。本当は、コウ君とフウ君の話し合いを見守りたかったのです。カイン君からしたら、コウ君がフウ君ときちんと話し合い出来るか疑わしかったから。
ユーリがこの家を離れて一年近く経つというのに、コウ君とフウ君はほとんど言葉を交わしたことがありません。何気ないおはよう、ただいまといった挨拶すら。
コウ君は毎日、村のパン屋さんで三食分買ってきて、フウ君に差し出します。「これ」と、たった一言添えながら。食べ物に関することだけはただ黙って受け取るわけにもいかず、「……ありがと」と、フウ君も一言で返します。その後、顔も合わせずそれぞれの食べたいタイミングでそれを食べるのです。
ユーリが家にいた時はさすがにここまで酷い関係ではなかったんですが。食事だって、朝と夜は三人で賑やかに食べていましたし……会話が盛り上がるのは主にユーリとフウ君がふたりで話していた時でしたから、今とそんなに変わらないのかも?
大事な話し合いだというのに黙りこくったコウ君の姿に、私はそーちゃんのことを懐かしく思い出します……あの子が口をきけなかった理由は最後までわかりませんでしたけれど。あの症状は幼い頃だけに特有のものだったのか、大人になれば話せるようになったのでしょうか。どちらにせよ、今となってはわかりません。
別に何か思いつめた風でもなく、淡々とした顔でコウ君は立ち上がり、家の外へ出ました。
「……お、おい。どこへ行くんだよっ」
無性に嫌な予感がしたフウ君は、コウ君を追いかけました。返事がなかったため、お互いに黙々と歩き続けます。
コウ君が向かったのは、村の真ん中にある役場でした。そこは森の真っ只中、巨大な一枚岩の上に建っています。遥か昔の大地震の際、この岩の上に上った人々の命が助かったという伝承があります。役場であると同時に災害時の避難場所とするためにこの場所を選んだのだそうです。
役場に上がるために設置された百段ほどの石段を、コウ君は無言で登っていきます。
「待てって、言ってんだろ!」
階段の中ほどで、フウ君はついに怒りにまかせてコウ君の肩を掴みました。
「……今すぐ売るとか貸すとか考えてるわけじゃないよ。そうしたい場合どうすればいいのか、話を聞いておくだけ」
「そんな大事なこと、なんでひとりで決めるんだよっ。……なんでおまえみたいな弱っちいやつが、おれの兄なんだよ……っ」
フウ君がコウ君を受け入れがたい理由もそこにありました。
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