夢へ堕ちる階段

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 同じ日に生まれた双子だというのに、ただお母さんのお腹から出てきた順番というだけで、公的には「コウ君が兄である」ということになってしまいました。家をどうこうする権利もフウ君にはなく、一切がコウ君の管理になってしまうのです。同意なく、一存で決めることが出来るのです。  コウ君が食事の買い物をしていたのだって、兄であるコウ君がお金の管理をするべしと、世間的に決められてしまっていたからです。 「……知らないよ……そんなの。おれが兄だっておれが決めたんじゃないんだから……でも」  コウ君は真剣な面持ちで、まっすぐフウ君を見返します。真正面からお互いの顔を見たことすらすでに遠い記憶になっていたフウ君にとって、たったそれだけのことでほんの少したじろぎました。コウ君の行動が、言いそうなことがまるで読めないから。 「おれは、おれに必要なことをするだけ。家を人に渡して金を得る必要があるならそうするしかない。そう思うだけだよ」 「だから……勝手に決めんなって!」  その時。フウ君は無意識に、肩を掴んでいた手に思わず力をかけすぎてしまいました。  コウ君の左足が、ずるり、階段の下の段に滑りました。  コウ君もフウ君もその瞬間は、何が起きたのか把握しきれていないようでした。揃いも揃って、ふっと、頭の中が空っぽになってしまったかのようで。  ふわりと宙に浮いたような感覚の後、コウ君は左肩を石段にぶつけ、強い痛みを自覚しました。その直後には側頭部も打ち付けて意識を飛ばしたため、痛みを感じたのはその一瞬で済みました。  何せ五十段のところから落ちたものですから、慣性に従っても最下段、地面までは届かず、残り二十段ほどのところでコウ君の体は止まりました。肩からの出血はありませんが、頭から流れ出した血が、石段を染めていきます。 「あ……」  フウ君は呆然と、その光景を見ていました。しばらくは頭が真っ白のままで、その場から動き出せずにいました。  やがて、役場に用事があって来た大人がコウ君の倒れているのを見つけて、村は騒然としました。騒ぎを聞きつけてカイン君も野次馬にやって来たのですが、まさか騒ぎの元がコウ君達だとは思っていなかったので現場を見て驚愕しています。  この時はまだ誰も、コウ君が転落した経緯を知らないから、大人達は誰もフウ君を責めず気遣います。それでもフウ君の心的負担は大きく、その場に座り込んで動けなくなってしまいました。
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