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フウ君が動けるまで自分がそばで見てるとカイン君が言うので、大人達は村の病院にコウ君を運んでいきました。
「もしかして……やっちゃった?」
カイン君は、フウ君がいかに、双子の兄を嫌っているか聞かされ続けていましたから。家のことで揉めるんだろうなということも察していましたが、まさかこんなことになるとまでは思わず、内心で慄きながらそう訊ねました。もし、意図的にそうしたのだとしたら、あんな提案をした自分に責任の一端があると思ったのです。
「ちがう……そん、つもり、じゃ、」
フウ君とて、たったひとりの双子の兄のことを、心底から憎んでいたわけではなかったのです。コウ君の性格が不器用で、自己表現が苦手だからこそすれ違ってしまうのだと知っていたから。もう少し、自分と……自分に限らず、周囲の人々と普通に接する努力をしてくれないものかと願っていました。
コウ君が家を手放すことにフウ君ほど頓着しないのも、フウ君を守るためならそうするべきだと考えていただけ。家よりもフウ君の方が大事だから。そう考えてくれているのだとちゃんとわかっていたのです。
「どうしよう……こ、コウが、しんだら……、いやだ……」
死んだら、どころか。このままコウ君が死んでしまったら、「自分が殺した」ことになってしまう。
フウ君は恐怖と、激しい後悔で、声すら出せずに泣き出しました。息を詰まらせ、過呼吸のようになってしまったのを見て、カイン君は取り急ぎ階段から降りるよう促します。
「だ……大丈夫だ、って。階段から落ちたくらいじゃ、死なない……よ」
心にもない慰めを言いながら、フウ君に肩を貸して、ゆっくりと階段を下りていきます。階段から落ちただけならまだしも、ほとんど頭から石段に着地したような状況では、人は死んでもおかしくない。カイン君はこの年頃の少年としては平均以上に賢い人だったので、決して楽観視して良い状況でないとわかっていました。
フウ君は呼吸をするだけで精いっぱいで、どうやら自分の嘘八百が耳に届かなかったらしい。傍らのフウ君の様子からそう判断して、カイン君は密かに嘆息します。そこにはささやかな安堵が滲んでいました。
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