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ふたりで作る世界
頬に冷やりとした、しかし優しい感触の風に撫でられるのを感じながら、コウ君の意識は覚醒しました。
周囲は自分の姿すら見えない暗闇一色で、コウ君自身には意識を取り戻したという感覚は得られません。意識を失う前の出来事を覚えていたので、あ、死後の世界ってやつかな。なんて漠然と考えます。
自分が死んでしまったかもしれないと思いながらも、それを嘆く気持ちがコウ君の中にはありません。
ユウにいも死んじゃったし、フウはおれのことなんか嫌いだし。
この世のどこにも、自分を必要としている人はいない。生きていたところで何になるっていうんだろう。
生まれてから今まで人と交流せず閉じこもってきたコウ君にとって、この暗闇もこれまでの自分の状況と大差なく思えたのです。
どれくらいの時間そうしていたでしょうか。自身の姿さえ見えない漆黒の世界の中で、コウ君は遠目に、小さな黒いもやのようなものが動いていくのを見ました。
胸の真ん中にさざ波が立つように、コウ君はその存在に気持ちをかき乱されるのを感じました。「あれを見失ってはならない」という強い直感。こんなにも心を動かされたのは、ユーリの死を知った時以来でした。
動こう、と意識した段階になってようやく、コウ君は自分が地面に座り込んでいたことを知りました。こんな上も下もわからない暗闇にも地面があるのか? それは疑問でしたが今は考えるよりも急がないと、そう思って立ち上がります。
靄の動きはゆったりとしていて、あっという間に追いつきました。目の前まで来てみると、その靄は自分の身長の半分ほどの高さの塊であったことがわかります。
この暗闇の世界の中では、コウ君は不思議なことに何も恐れを感じません……その理由がわかれば不思議でもなんでもないことなのですが、それはさておき。
コウ君は無遠慮に、黒い靄に手を突っ込みました。その瞬間に靄は人の形をあらわして、コウ君は小さな人の肩を思いっきり掴んでいました。
あまりに突然で、予想できたはずもない、人に掴まれる感触。その小さな人影はびくっと身を震わせて、コウ君を振り返りました。
「……? なに?」
「なにって……君こそ何してるの? こんなところで、ひとりで。君みたいな小さい子が……」
「ひとをさがしてる。まえ、ずっといっしょだったのに、きがついたらいなかった。ここのどこかにいるとおもって」
幼い子供らしく、たどたどしく、話します……。
声を聞いただけではわかりませんでしたが、だんだんとコウ君の目が慣れてきてその小さな子の姿が鮮明になってきて、わかりました。
その子はそーちゃんでした。
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