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あの日、最後に見た時の姿のまま……服に隠れて見えない肌の部分はわかりませんが、顔は全面的に赤黒い染みで覆われて痛ましい……。
それでも……動いていて、お話しもしていて。こんな暗闇に数百年ひとりぼっちでいたのでしょうか? 単純に喜んでいい状況ではないのかもしれませんが、私は嬉しくてたまりませんでした。
今こうしてお話し出来ているということは、あの頃のそーちゃんが喋れなかったのは精神的な問題ではなく、体の方に障害があったということなのでしょうか。
そしてコウ君も、知ったのです。この暗闇の世界で、そーちゃんを見つけて、その病んだ体に触れた時に。
幼い頃から夢に見続けてきた、コウ君を蝕む悲しみの持ち主が誰だったのか。何をそんなに悲しんでいるのか……。
「君の探しているその人にはもう、会えないんだ」
「なんで?」
「その人はもういない。話も出来ない……この真っ暗闇の全てが、その人だから」
「……わかんない」
「だろうね……」
コウ君自身、あまり人と話した経験が少ないですし子供ですし。それよりもっと幼いそーちゃんのわかるように説明出来ている自信はなかったのです。
コウ君はそっと、そーちゃんの頬に自分の両手を添えました。手のひらが仄かに金色の光を放ち、赤黒くなっていたそーちゃんの顔が綺麗になっていきます。ああ、やっぱり。そういうことなんだ……自分の力を試したのです。
コウ君のふるえる力では、実際にそーちゃんの体を治せたわけではありません。変色した顔の上に、ごく普通に見える幻で覆い隠しただけ。
いいじゃないか、別に。都合の良い幻だとしても……それで心だけでも救われるなら。
すっかりきれいになったそーちゃんの顔を見て、コウ君は密かに満足していました。どんなに頑張っても何の救いもない、守りたかったものを守れない……生まれた時からそんな夢を見続けてきたコウ君が、初めて自分を肯定出来た瞬間でもありました。
「立ったまま話すのも落ち着かないから、いったん座らない?」
「……あのー。あなたはだれ?」
しらないひとにきゅうにはなしかけられてもいうこときいちゃだめ。あの頃そーちゃんに、私達とはぐれた時の対応として教えておいたことです。
「おれの名前はコウっていうんだ」
「コウ?」
そーちゃんはまじまじと、訝るようにコウ君を見上げます。
「ソウのさがしてるひととなまえがおんなじ……かおもちょっとにてる……きがする。もっとおおきいけど」
「……名前がおなじだけの別の人だよ」
「ほんと?」
「本当……かなぁ?」
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