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私は頭を振った。まるで幸哉はもとには戻らないと思っているみたいで、自分自身に不快になった。
天罰覿面。
くそ親父は、くそだったがために子に殺された。
私たち姉弟に、殺された。
天罰天罰。
覿面というには時間がかかったが、神さま仏さまはおそらく恒久の存在なのだろう。はかない短命の人間とおなじ尺度のはずがなく、天罰を下してくださったことを素直に感謝しよう。
天罰とはいえ、くそ親父を殺した子――こちらに跳ね返ってきた天罰は、弟の姿を変えてしまった。その弟のそば、為す術もなくおたおたしている私。
これで終わりだろうか?
終わっていないなら、この先どんな道をどう流れていくのか。
うたた寝をしていたはずの幸哉が、私を見下ろしていた。大きな牛の身体の弟の目線は、すわっている私よりも高い。
「幸哉、たれてるよ」
えっ。
「たれてる。口閉じて」
えへへ。
笑ったときの飛沫が、私の手にかかっていた。
照れて笑った幸哉は、口からだらしなくこぼれた唾液を、折った前足で器用にぬぐった。
胸に苦しくて苦いものがこみ上げる。
洗面所から洗濯機のブザー音が聞こえた。
「干してくる」
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