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一瞬耳鳴りがひどくなったのかと思ったが、私はブザー音に救われた気分だった。
庭に出て洗濯物を干していると、耳鳴りがすこしやわらいだ。
ひとり分なら洗濯物はすくないが、念のために弟の服も洗っていた。弟に服はいらない。きれいなのにくり返し洗われる服は、徐々に色が落ち生地がへたれてきている。
住まいは僻地だ。
となりの敷地まで距離がある。そしてそこは空き地になっていた。管理されていない、雑草の生い茂った区画になっている。
我が家は空き地に周囲を囲まれていた。
周囲の空き地はとある企業が過去に買い上げ、我が家の建つ場所も買い上げる計画に入っていたはずだ。
が、我が家との価格交渉の真っ只中、景気が悪化してしまった。企業は土地を買いつけている場合ではなくなり、あっという間に経営者が変わったりと、地上に打ち上げられた瀕死の魚がのた打つように手段を講じ、気がつくと名前がなくなっていた。
周囲の大部分がどこかの企業のものになったらしいが、現在では細切れの売り地となっている。それぞれが民家を建てるのに適した大きさで、様々な不動産会社に管理されているらしい。
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