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 白い端正な顔を乗せた身体は、黒毛にてりてりと光る立派な牛――滑稽な姿だ。  壁のホワイトボードに、幸哉への伝言を残す。  でかけます、と短い一文だ。  伝言は、以前はもっと長かった。  ――どこにいってなにをする、このくらい時間がかかると思う、遅くならないようにする。  私がいない間、ひとりになった幸哉の孤独感がすこしでも軽くなるように――私が気にかけているのだと知らせたいがために、書きこめるだけ書きこんでいた。  しかし毎回書いていた文章は、次第に短くなっていった。  幸哉が文章を理解できなくなっていると気がついてしまうと、一方通行の伝言の虚しさは私を打ちのめした。  未練がましく伝言を残しているものの、いつかなにも書き残さない日がくるのではないか。その日を思うと、私はすこし気が滅入る。  なにかあっても、幸哉は私に連絡が取れないのだ。  弟は電話も使えなければ、閉じた扉も開けられない。  誰にも助けを求められない。  居間につながる廊下と台所だけが、いまの幸哉の全世界だ。
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