何処かで見た風景

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何処かで見た風景

 学校での昼休み。  机をくっ付けて、各自弁当やパンを食べながら四人の女子達が談笑をしていた。 「でね。私は色々と考えた結果、一つの結論に至ったってワケ」  いや。  談笑というよりも、苺ミルクを片手に話しまくる黒髪の少女の話を、残りの三人が聞いている格好だ。 「結論。自宅から一番近い駅が、最寄りなのさ!」 「──そう。取り敢えず、私達の10分返して」  隣で鋭い視線を送る少女は、彼女の幼なじみである東村ユリである。 「何でアタシ達、真面目に聞いちゃったんだろうな……」  そのユリの正面に座る金髪の少女、北島夏音は苦笑いを浮かべ、紙パックの牛乳のストローを後悔の念と共に啜った。 「まだ始まって5日目ですが、今月で最も無意味な時間でしたよ、ありすさん」  その夏音の隣、つまりは黒髪の少女の正面に座る茶髪に眼鏡の少女、西口瑠々が、両手でリンゴジュースのパックをチューチューしながら無駄にテンションの高い黒織ありすに言う。 「っていうか、ありす。あんた今朝も遅刻したでしょ? 私が朝練有る時は、ちゃんと一人で起きて準備して登校しないと。貴女のお母さんからもお願いされているんだからね」  ユリが親戚の叔母さんのようにアリスに言って聞かせたが、ありすは何処か不満そうに唇を尖らせる。 「ぶぅ~~、ちゃんと起きてたよ。けどさぁ、一からビーフシチュー作ってたら時間がね」 「何故朝から手間の掛かる料理をチョイスしたんですか……!? ありすさん正気ですか……!?」 「もう間に合う気無いだろ……」  瑠々と夏音が若干引きながら言う。 「アタシが言うのもアレだけど、少しは反省した方が良いぞ?」 「そう、夏音の言う通りよ。っていうか、あんたは猛省しなさい」 「ユリさんはともかく、夏音さんに言われたら本当にお仕舞いですけどね」  そんな、口々に反省しろと言われたありすは、眉間にシワを寄せて両腕を組んだ。 「いやいや、私はちゃんと反省してるよ。自分の作品に間違えてスター送っちゃった時ぐらい申し訳ないって思ってるから」 「反省してないわねこの子!」 「落ち着けユリ!」 「ありすさんも挑発しないで下さい!」 「挑発じゃないも~~ん。料理部の活動の一環ですから。何て言うか……朝練?」 「腹立つわね……!」 「うん、心中察するぞ」  夏音がユリの肩に手を乗せて一旦落ち着かせる。  ユリはありすに正論を言って聞かせたいのだが、タイヤを殴っているみたいに本人には全く響かない。  今では、ありすは問題児扱いされており、何故かユリが度々職員室に呼び出されては、指導について話し合う始末。  そんな幼なじみの環境をどうにか改善させようと、毎回結構頑張ってはいるのだが。  結論から言うと、成るようにしかならない。 「ま、それは一旦置いといて、皆。今日は放課後、料理部来れる?」  このマイペース。  ユリは溜め息を吐いて、気持ちを切り替えた。 「私は剣道部の練習があって無理よ」 「アタシは空手部の部長に、今日は来いって言われてるんだよなぁ~~」 「成る程ね。ユリとのんのんは、本来の部活があると」  ありすは少し拗ねた態度を見せた。 「そうよ」 「……それ、やってて楽しい? 二人は何の為に戦っているの?」 「何か諭しにきたぞ!?」 「あと失礼です!」 「ほっといて良いわ」  と、ユリが額に手を当てて夏音へと言う。  多分、料理部への遠回しな勧誘だろう。  正式な部員になれと。  その証拠にありすが舌打ちをしたのが分かった。  そんな微妙な空気の中、瑠々がサッと手を挙げる。 「あ、私は図書委員の仕事が有るので、今日はちょっと」 「ふ~~ん。じゃあ、今日はルーちゃんと遊ぼうかなぁ~~」 「あ、ありすさんが言うと、何か全部が全部サイコパスに聞こえますね。っていうか聞いてました? 私今日、図書委員の仕事が有るんですけど……」 「大丈夫、仕事もバッチリ手伝うからさ! その合間に、ミルキートロピカルスパイダーゲームやろうよ!」 「それは一人でやって下さい」 「じゃあ、お互いのストッキングを口で裂き合うゲーム!」 「警察呼びますよ」  ──しかし、結局。  その日ありすは、遅刻とミニテストの赤点の件で酢の物みたいにあっさり、呼び出され。  放課後、教室で普通に補習になった。  それを受けて三人は、「ここ最近で一番意味の有る日になったね」と口々に呟いた。
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