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テスト死闘
◆
「うぇ……何でテストなんて有るんだろう」
ある日の昼休み。
ありすが苦虫を潰したような顔でパックジュースを啜った。
もう泣きそうを通り越して吐きそうになっている。
「それアタシも思った。今回もあんまり出来なかったな」
「え、それ程難しい問題は無かったと思いますが」
「そりゃ瑠々だからだよ」
「ユリはど~だったの?」
「うーん。現代文が少し不安ね」
ユリはそう言って弁当箱を片付けた。
部活をやっていても、必ず学年十位以内には入っているユリ。
文武両道をリアルに貫く彼女には、隠れファンも多い。
「あ~~、私も」
と、ありす。
「私もユリと同じで現代文一ミリも分からなかったから、取り敢えず空欄は全部マンモスって書いて埋めといた」
「現代文で!?」
「まあ、どこかは当たるでしょ」
「そのマンモスへの信頼は何処から!? っていうか絶対掠りもしないから!」
「何でありすさん、入学出来たんですか……」
「定員割れもしてなかったぞ……」
その時、問題文も引っ括めて様々な謎が渦巻く校内に、放送が入った。
予想はしていたが、ありすの呼び出しである。
そして更に、ユリにも呼び出しが掛かる。
声と口調から、現代文の担当教師であるマリ先生である事が分かった。
「ユリ、何かしたの?」
「間違いなくアンタのマンモスの件だわ!」
ユリにとっては巻き込まれ事故だったが、仕方が無かった。
この学校で唯一、ありすを乗りこなす適正が高い人間だからだ。
なので、二人は放課後。
職員室に揃って入った。
真っ直ぐに、マリの机に向かう。
「来たか、黒織……!」
椅子に座りながら既にキレているマリは、ありすの目の前に解答用紙を突き出す。
「何だ、これは……!」
「か、解答用紙です」
「答えの事を聞いてんだアタシは!」
問1マンモス
問2マンモス
問3マンモス
問4マンモス
問5マンモス
問6マンモス
問7マンモス
問8マンモス
問9マンモス
問10マンモス
問11マンモス
問12マンモス
問13マンモス
問14マンモス
問15マンモス
問16マンモス
問17マンモス
問18マンモモ
「書き過ぎて最後ゲシュタルト崩壊起こしてんじゃねぇか!」
「諸刃の剣なもので──」
ガスッと音を立てて、ユリの手刀がありすの顔面を捉えた。
「せめて生物か歴史でやれよ!? 私が手間掛けて作った現代文の解答用紙に巨大な群れを連れて来んな! もうマンモスを狩る時代は終わってんだ!」
その後も、隙の無い説教は続き。
二人は取り敢えず四十分怒られた。
「いいか! 次の小テストで一教科でも赤点取ってみろ! 五寸釘でお前の頸動脈ぶった切るからな!」
「ご、ごめんなさいぃぃ~~」
この世界でのみ許される強めの脅しを受け、ありすは震えながらユリにくっ付いた。
それでも今回は圧倒的にありすが悪い。
小テストでの赤点回避が厳罰なら、破格の処置である。
二人はその足で教室に戻り、瑠々と夏音に赤裸々に職員室での出来事を話した。
「赤点回避かぁ~~。どう思う、瑠々?」
「どう思うって、ありすさんですよ? 普通に考えて無理じゃないですか? チンパンジーがエブのファンタジージャンルで日間一位取るよりも難しいですよ」
「成る程、詰んだな」
「ええっ!? 私の命が懸かっているんだよ!?」
「まぁ、ありすさん一人の命ですし」
「酷いよ! 私が何したっていうの!?」
「まず自覚が無いんだな……」
「このままじゃ、間接的にのんのんやルーちゃんだって死ぬんだよ!? 私と命を共有してるから!」
「日常系コメディにそんな重い設定は有りません」
「うう……。そ、それなら今日は放課後皆で勉強会っていうのはどう!?」
ありすの口から勉強会という単語が出るのは、雷に打たれる確率より低いとされている。
流石に命の危機が迫るとなると、人間は生存本能が刺激されるようである。
「……仕方ないですね」
「まぁ、アタシもありすの事言えないからな」
二人が渋々、その二度と言わないであろう申し出を受ける。
感動したありすは、涙目で二人に抱き付いた。
「ありがとう二人共! 後で春巻きの作り方教えるから!」
「せめて現物でくれよ……」
そして学校が終わり。
ありす達は瑠々の家に集合した。
相変わらずの豪邸っぷりで、本棚には参考書が大量に詰まっている。
部屋に居ると、瑠々が紅茶とシュークリームを持って来た。
「一応聞きますけど、ありすさん。テスト前に勉強とかしましたか?」
「まぁ、一応ね」
瑠々は少し、胸を撫で下ろした。
「成る程。もしかすると、方法や効率が間違っている場合がありますね。先ずはそこから改善していきましょう。どんな勉強法を試したんですか?」
「現代文はマルチ投稿を試したかな」
「そもそも学業との区別が付いていないパターンッ!!」
「あれ結構大変だった。結局、エブ一本にしたよ」
「何処に力を使っているんですか!?」
「っていうか、ありす。お前テスト前に作品投稿なんてしてたのかよ……」
「うん。現代ファンタジーをちょっとね」
ありすはケーキを食べながら答えた。
そこから、話題が徐々にありすの書く現代ファンタジーに移っていく。
「あんた、小説なんて書けるの?」
「やってみたら簡単だよ~~。能力バトル物を書いてるんだ」
「ああ、ラノベ系ってヤツか」
「あ、あの……お二人共……?」
「実はレビューとかも何件かきててね。主人公に共感出来ません、感情移入不可だわ、主人公の能力がキツイとか」
「優しいエブで!?」
思わずユリがツッコミを入れた。
最後の砦が消え去った事で、瑠々は傍観者の一人となる。
「私も何でかなぁ~~って。主人公は身体の小さい不良の女の子で──鶏なのに」
「納得の共感不可!」
「主人公は『卵産み』と『滑空』の能力で闘うんだよ」
「それ雌鳥の標準装備じゃない!?」
「確かにキツイ能力だな……」
「因みにヒロインは毛布にした」
「生物ですらない!?」
「もう令和の読み物じゃないだろ」
そうして、今日も。
無駄な時間が穏やかな歩幅で過ぎ去って行く。
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