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「今日が特別な日だとわかっていらっしゃるなら、早く着替えを済ませましょう。陛下たちも楽しみにしていますからね」
「それなんだけどさ。僕、ドレスがいいな」
「ヴィルフレード様? 今なんとおっしゃられましたか?」
部屋中をイノシシみたいに忙しなく動き、ぬいぐるみや人形、らくがきした紙を片付けていた乳母が動きを止め、ぐるりと体をこちらへ向けた。
「だから、僕が着る服だけど、レティツィアが着ているようなドレスが欲しいんだ」
お兄様の言葉に、乳母は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。口を大きくあんぐりと開けていた。
「ご、ご冗談でしょう?」
「ドレスを準備してよ。ドレスじゃないと僕は外に出ない」
「お兄様っ! なにを言ってるの? 本気?」
乳母だけじゃない。私も同じようにポカンと口を開け、お兄様を見た。
ヴィルフレードじゃなくなるって言ってたけど、それってつまり……
「ずっとレティツィアのドレスがいいなって思ってたんだよね」
「とんでもない! そんなわけにはいきませんっ! ヴィルフレード様は王子なんですよっ。王子は王子らしい服装をするべきです」
「じゃあ、外に出ない」
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