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クラウディオ様の口からお兄様の名を聞いて、姿が見えないことに気づいた。
一緒に逃げていたのに、王宮内が混乱していたせいで、はぐれてしまった。
「ヴィルフレードか?」
クラウディオ様がお兄様の名を呼ぶ。その声に温度を感じず、ひやりと背筋に冷たいものを感じた。
嫌な予感がする。
クラウディオ様が私に『身の潔白を証明できなかった』と言っていたのを思い出し、顔を上げた。
顔を上げた先にはクラウディオ様が立ち、その手には赤い血のついた剣が握られている。胸に黒い不安が広がっていくのを感じた。
「どうなったか知りたいか」
「まさか……その血は……」
「裏切り者は殺した」
「こ……殺したって……お兄様っ……!」
クラウディオ様の言葉を信じたくなくて、お兄様を探そうと走り出した瞬間。私の胸に強い衝撃が加わる。
「……クラウディオ様……わたし、たち、本当になにも……」
殺された憎しみより先に信じてもらえなかったことが悲しくて涙がこぼれた。
血の中に倒れ、最後に見たのはクラウディオ様の笑顔。冷たい目で笑っている。
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