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微笑んだのは自分を脅かす敵を殺すことができたから――ああ、私は死ぬのだ。
徐々に意識が遠退き、暗闇の中に沈んでいく。
冷たくなる手足と重さを増す体――私は完全に死んだ。
殺されたのは十六歳の誕生日。十六歳になった私とクラウディオ様の結婚式が行われるはずの年だった。
◇◇◇◇◇
気がつくと、私は真っ暗な闇の中にいた。
そこは無音で自分の息づかいの音さえしない。闇と静寂が意識を消していく。
私の体も意識も、どんどん深い闇へ消えていくのがわかった。
これが冥府。
生きていた時の記憶が剥がれて溶けていく――悲しみさえも。
そう思っていた。
『自分の命を全部あげます。だから、二人を生き返らせてください』
消えそうになっていた私の耳に暖かな光と声が届く。
静寂だけだった世界に亀裂が入り、光が闇を打ち消した。ふわりと闇の中から体が浮かんで、明るいほうへ引っ張られ、どんどん意識が明瞭になり、気のせいでなければ、体の感触も戻ってきた。
目を開けようとしても、闇の中にいた私は眩しくて、なかなか目を開けられない――死んで暗闇の中にいたのにそれはおかしい。
「えっ……?」
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