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畑は荒れ果て、家もボロボロになっていた。
自分が育ってきた村の姿はどこにもなかったのだ。
歩いている人の姿も見えない。
どういうことだろう。
少し歩くと、「母屋」が見えた。
母屋とは、皆が集まる集会場なようなものだ。
見覚えが有る。
こんなに村は薄暗かっただろうか、空を仰ぎ見ると、暗く、澱んでいた。
自分の記憶の中の村と、いまの村では、全く違っていた。
母屋の扉を開けると、ヤマは目を見開いた。
皆が集まって床に倒れていたのだ。
かろうじて、動いているものもいる。
突然の来訪にヤマの方を見る村人たちがゆっくりと顔を上げた。
「ヤマ、ヤマなのか?」
知っている顔だった。
同じように育った友達だった。
友達は、目を見開いて、体を震わせたあとに、泣き出した。
「ヤマ、ヤマ」
名前しか言わない。
「何だ、これは」
ヤマは訳が分からなかった。
夜になり、別の場所に村人たちは集まった。
ヤマの帰郷を喜ぶものも多かったが、一様にして元気がなかった。
その理由は直ぐに分かった。
「疫病だ」
ヤマはそう村人たちに告げた。
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