第一幕 胸に閉じ込める

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百子はぎくりとしたが、何とか言い訳を絞り出した。 「……明日はホテルに泊まるよ。その後は住める部屋を探して、住んでた家から私の荷物だけを引っ張ってきて引っ越すつもり」 「それだと高くつくぞ。明日以降どうするか考えてるのか? それとも泊まる当てでもあるのか?」 「それは……今から作る……」 (見え見えの嘘つきやがって) 「無いのかよ。無いなら無いって言えばいいだろ。お前は昔から素直じゃないよな」 百子はムッとして言い返した。 「別にいいじゃない。東雲くんには関係ないでしょ」 彼女のぶすくれた声が掛かっても、陽翔には全く届かなかった。 「いいや、あるね。昨日繁華街で助けた時点で大ありだぞ。関わり持ちたくないのなら、俺はあの場から逃げてた。残念だったな。まあ流石にそこまで酷い目に合ってるとは思わなかったが」 百子は何も言い返せず、唇を噛んだ。 「だから俺にも関わらせろ。ここにしばらく住んでそこから通勤したらいい。住む場所を見つけるにしても、最低でも1ヶ月はかかるだろうし。その間まさかずっとホテル暮らしするとか思ってるなら、下手をするとお前の月収が吹っ飛ぶぞ。その間の洗濯とか、飯も出来合いの物が中心になるからその費用も馬鹿にならんし。荷物もほぼ家にあるのに、取りにいけるのは平日だけだとお前の仕事にも支障がでるだろうな。荷物を取りに行けたとて、持っていける物には限りがあるし、ホテルに置いておくとしてもチェックアウトの時に一気に持って行けるのか」 百子は反論しようとしたが、彼の言うことはいちいちもっともだ。むしろ百子の策の方が現実離れしており、なんならお金の心配もつきまとう。しかも泊まる当ては無いに等しい。流石にあんな事情を話して同僚の家に泊まるのも気まずいし、実家に帰ろうとしても、そこから通勤すると片道で1時間半もかかる。そして百子の友人達は皆揃って既婚者なので、泊まらせてくれとはとてもじゃないが言い出せない。 さらにプロジェクトのリーダーに任命された百子としては、発表を控えているのに今有休を取る訳にもいかないのだ。 「……わかった。ホテルに泊まるのは止めにする。現実的でもないし。少しだけここに厄介に……いいえ、お世話になります。不束者ですが、よろしくお願いします」 百子は深く頭を下げた。陽翔はその言葉に一テンポ遅れたものの、顔を赤らめて上ずった声を出した。 「ああ、よろしく……。まずはしっかり休息を取れ。お前のその状態は誰が見ても休息が必要だからな」
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