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第二幕 友達以上の気持ち
お互い必要な分の買い出しはつつがなく終わり、陽翔のリクエストで百子が行きつけのお店に行くことになった。卵がふわふわでとろとろなオムライスや、内装がレトロなので有名な、昔ながらの洋食屋さんである。弘樹と同棲するようになってからは一度も行っておらず、8ヶ月ぶりに百子は店に足を踏み入れ、陽翔はビフテキを、百子はオムライスを注文した。
「ビフテキなんて文豪の書く小説にしかないイメージだったのに、今でもあるのか」
「うん。私も初めて見た時はびっくりしたよ。ビフテキも好きだけど、私はふわとろな卵のオムライスが一番好き。家で再現できないのが悔しいけど」
だから前は月一度は通っていたのよと彼女は付け加えた。陽翔は彼女の言葉が過去形だったことに気づいて、恐らくはしばらく来店していない理由を聞こうと口を開くが、料理が来たことで口の中に消えた。朝ごはんをいつもよりも早めに食べたので、食欲が勝ったのだ。いい匂いに急かされるように、ナイフで小さく切ったビフテキを口に運ぶ。
「こんなに旨いものが食べられるならお前に付き合ったかいがあるな」
慣れた手つきでナイフとフォークを使っている陽翔は、百子に向かって心底嬉しそうな笑顔を向けて感謝の言葉を述べる。百子は陽翔が噛んでいるのも謎なペースでビフテキを平らげようとしているのを見て目を見開いたが、全く悪い心地はしなかった。
「大げさね。でも私もここのお店のビフテキは好きだから嬉しい。久々に来れて良かったし。こちらこそついて来てくれてありがとう」
オムライスをつつきながら百子も微笑む。昨日あんなことがあったのに、その次の日から笑えるようになるなんて夢にも思わなかった。百子は買い物途中に、スマホのメッセージアプリに弘樹から大量のメッセージが来ていたのに気づいて気分が悪くなったので、美味しいものを食べている今はせめて考えないようにしようと、それらを脇に追いやった。
「やっと笑ったな。買い物途中も浮かない顔だったが、やっぱり食い意地には勝てなかったか」
百子は前半の台詞でギクリとしたものの、後半の台詞で眉を上げた。
「食い意地って何よ。食欲って言いなさいな! それにしてもなんで私の奢りなのに、自分の好きなお店を指定しなかったの?」
「好きな店は近所にないからな」
「ここだって近所じゃないけど?」
陽翔はギクリとしたが、水を飲むことでそれをごまかす。
「……新しい店の開拓がついでにできると思ったんだよ」
「ふーん……? あ、夜にしか開いてないお店が好きなところなのか」
「……そんなところだ」
百子は陽翔が一瞬目をそらしたのが気になったが、陽翔の皿がほとんど空になっているのを目撃したので、スプーンをせっせと動かすことにした。
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